御報恩御講(令和5年9月)

 令和五年九月度 御報恩御講

 『四条金吾殿御返事』   弘安元年閏十月二十二日  五十七歳

 李(り)広(こう)将軍(しょうぐん)と申(もう)せしつはものは、虎(とら)に母(はは)を食(く)らはれて虎(とら)に似(に)たる石(いし)を射(い)しかば、其(そ)の矢(や)、羽(は)ぶくらまでせめぬ。後(のち)に石(いし)と見(み)ては立(た)つ事(こと)なし。後(のち)には石虎将軍(せっこしょうぐん)と申(もう)しき。貴(き)辺(へん)も又(また)かくのごとく、敵は(かたき)ねら(狙)ふらめども法華経(ほけきょう)の御(ご)信心(しんじん)強盛(ごうじょう)なれば大難(だいなん)もかねて消(き)え候か(そうろう)。是(これ)につけても能(よ)く能(よ)く御(ご)信心(しんじん)あるべし。
(御書一二九二㌻七行目~一〇行目)

【通釈】昔、中国の李広将軍と申すつわものは、虎に母を食い殺されて、その虎に似た石を射ると、その矢は羽根まで達する程突き刺さった。しかし、それが石と気付いてからは、幾度射っても矢が刺さることはなかった。このことから、後世の人々は李広将軍のことを石虎将軍と呼ぶようになった。あなたもまた、この故事と同様(に一念が大事)である。敵が狙っているであろうが、法華経への御信心が強盛であれば、大難も消えるであろう。これにつけても、よくよく御信心を深めていきなさい。

□住職より

 本年も九月となり龍ノ口御難会を迎え、来月は宗祖日蓮大聖人御会式法要の月となります。大難四箇度小難数知れずと、大聖人様が御身をもって示された御姿、特に龍ノ口の御法難は、上行菩薩の再誕日蓮の垂迹身を払い、久遠元初乃至末法の御本仏様としての本地を顕された、大聖人様の御事蹟の中でも発迹顕本という大事な意義を持ちます。それは正にお釈迦さまが法華経に予証された末法の法華弘通の大導師御出現を示され、末法の時代に入って何人たりとも示すことが無かった御姿を示されたのであります。その後、大聖人様は出世の本懐として本門戒壇の大御本尊様御図顕遊ばされ、弘安五年十月十三日に御入滅遊ばされました。末法令和の今、私たちは大聖人様が顕された唯一無二の正法正義を、血脈付法の御歴代御法主上人猊下のもと、大聖人様が『立正安国論』に示された立正安国の御精神を奉戴して、世情の浄化矯正と一生成仏の誓願を成就し、御本仏様御出現の国たる日本国に人として生を受け、巡り会い難き正法に帰依することができた所以をよくよく理解し、感謝し、自らの行業によってその使命と責務を全うすることが肝要であります。
 大聖人様は『立正安国論』に、「汝蘭室の友に交はりて麻畝の性と成る。誠に其の難を顧みて専ら此の言を信ぜば、風和らぎ浪静かにして不日に豊年ならんのみ。但し人の心は時に随って移り、物の性は境に依って改まる」(あなたが蘭の室に入れば身体は芳しくなり、麻畑に生じた蓬はまっすぐ伸びるように、あなたが私の言葉を信じて災難に対処するならば、世の中は風が和らぎ、波が静かになるように、必ず穏やかとなり、日ならずして豊年となるでしょう。しかし、人の心は時節とともに変わりやすいものであり、また物の性質は環境によって変化するものです)と仰せになられているように、せっかく日蓮正宗の僧俗となり、より良く境界を好転させていく千載一遇の機会に巡り値ったものの、その修行を怠れば来るべき果報も、境涯も変えることができず、一生成仏の境界も確立できずに、苦悩の境涯へと堕してしまいます。
 ましてや、世の中は五濁爛漫たる末法娑婆世界の瑞相を呈し、世間でも「朱に交われば赤くなる」と言われるように、私たちの身心はひとたび娑婆世界の悪縁に誑かされれば、簡単に境界を下げてしまい、その人生を狂わしてしまうほど、移ろいやすいものであります。ですから、皆さん自らが人を騙し貶める鬼畜の所行とも言うべき、世間の悪縁や悪知識に近づかない、感化されない、影響されないということが重要であり、逆に進んで悪知識や邪宗謗法を破折し、対治することが、今まさに最も肝要であることを覚知すべきであります。
 世間では、新型コロナウイルスの感染状況は収まることもなく、更に自然災害が猛威を奮い、五欲に著した人々や会社、その他人々を不幸に貶める徒輩の悪事によってその被害を被り、人生を狂わす人々が後を絶ちません。このことは、私たちにとっても他人事では無いことを知るべきであり、更に隙あらば入り込んでくる魔に魅入られることがないよう、留まること無く継続して自行化他に亘る不断の唱題行と、ありとあらゆる悪の因縁を断ち切りつつ、自身の因縁宿習に立ち向かい、進んで誤った宗教や思想に転じている人々を破折し、正法正義に帰依せしめることができるよう精進することが肝要であります。
 皆様にはどうか、天璋院篤姫が幕末の迷乱期に、貞明皇太后様が太平洋戦争が勃発した混乱期に本宗に帰依され、我が国や国民の平和安穏を心より願われ、国難を治めんが為に御本尊様にお題目を唱え尽くされた姿を偲び奉り、今こそ令和の法華講衆として、世のため人のため勇猛果敢なる信行の実践に励み、先師先達方に恥じない行業を修して頂きたいと心より念願いたします。