欲張りの尼 (あま) (令和元年9月)

むかし、インドのあるところに尼さん(女性の僧侶)たちが修行している僧がありました。

その中に、チュウラという出家得度(しゅっけとくど)して僧侶になったばかりの若い尼さんがいました。

そのチュウラが僧園の近くのニンニク畑を通っているときのことです。

ニンニク畑で仕事をしていた主人が、「そこの尼さん、いつも修行ご苦労様だね。よかったらいいニンニクが収穫できたから、少し分けてあげますのでお持ちになって下さい」と言いました。

 

チュウラは大変よろこんで受け取り、さらには僧園のみんなにも分けてあげたいと申し出ました。

主人は気持ち良く、
「はい、わかりましたよ。これから尼さんが来られたら、おひとりおひとりに5本ずつ差し上げましょう」と言いました。

チュウラは主人の思いやりの心を素直に受け取り、
「ありがたいことです。これからも健康に気を付け、世のため人のためになれるよう修行にがんばります」とは思わないで、「あの主人の気が変わらないうちに、明日はみんなでニンニクをもらいに来よう」と欲張りの心をおこしました。

 

次の日、チュウラは出家得度して間もない尼たちを大勢連れて、ニンニク畑にやってきました。

そこには昨日の主人はおらず、畑の番人が1人いるだけでした。

チュウラは番人に、「ご主人はいませんか?」とたずねました。

番人は「主人は市場にニンニクを売りに行って、今日は留守です」と言いました。

チュウラは、「昨日、ご主人が、私たちが来たら、ニンニクを1人5本ずつ下さると言われましたので、今日みんなで頂きにきました」と言いました。

すると番人は、「あぁそうですか。せっかくですが今日は主人が留守で、そのことについて私は聞いておりませんし、私が勝手に差し上げるわけにはいきませんので、主人がいるときにおいで下さい」と丁重にお断りしました。

ふつうはこの会話で尼たちは出直すところですが、チュウラは欲の心でいっぱいです。

チュウラは、「あなたは番人のくせに、ご主人が上げるというのをこばむ権利はないでしょう」と言って、自ら畑でずんずん入っていき、これはあの先輩の分、これはこの先輩の分、これは今日食べる分、これは明日食べる分、これはあさって食べる分といって、5本どころかどんどんニンニクを取っていきました。

ほかの尼たちもチュウラと同じように、どんどん取っていき、ついには畑のニンニクはすべて無くなってしまいました。

番人はあまりのことにぼう然としていましたが、尼たちはニンニクをすべて取り尽くすと、「ありがとう」と言って平然と帰って行きました。

 

まもなく主人がニンニク畑に帰ってきて、畑をみるとビックリして番人からそのいきさつを聞きました。

そして、尼たちが親切心を欲心で踏みにじった行為に忿りを感じるとともに、仏道修行するものの欲心にかられた、あさましい行動に憐れみの心を感じました。

 

やがてこの事件は、お釈迦さまの知るところとなりました。

お釈迦さまは、チュウラや一緒にニンニクを取りにいった尼たちに対し、大勢の僧侶や信徒の前で厳しくその欲張りの行為をしかり、彼女たちの過去の因縁を次のように語りました。

 

「むかし、あるところに100歳になる男がいました。そのバラモンには若くて美しい妻と幼い子供が大勢いました。

しかし、その男は、妻や子共たちの将来に未練を残しながら亡くなりました。

彼の妻子を思う心によってか、彼は妻子の近くに雁という鳥になって生まれ変わりました。

しかもその雁は、前世の妻子を覚えていました。雁の全身は金の羽根につつまれていました。

雁は残してきた妻子の生活を支えるために、毎日妻子の住む家の上に飛んで行き、金の羽根を1本ずつ落としていきました。

妻子はその金の羽根を売り、それで不自由のない生活をすることができました。

 

ある日のこと、子供たちはあの雁をつかまえて、金の羽根を全部取ってしまおうと相談しました。

そして、母親と共に網を張り、雁をつかまえてその金の羽根を全部抜き取ってしまいました。

夫であった雁は妻子の生活を案じて、金の羽根を1本ずつ落としていたのに、全部抜き取られてしまったので、もう金の羽根は新しく生えてきませんでした。

それで雁の思いやりもむなしく、その母子はとうとう生活できなくなり、やがて亡くなってしまいました。

そうです。チュウラの前世の姿が若い妻で、若い尼たちの前世の姿が妻の子供たちで、ニンニク畑の主人の前世の姿が、雁に生まれ変わった妻の夫です」

と、お釈迦さまは、欲張りの心にとらわれた尼たちの前世の姿を説き明かし、その因縁を話しました。

そして、
「畑の主人がせっかく尼たちの健康を気遣い、ニンニクを分けてくれたのに、その心を無にしてニンニクを取り尽くしたので、もうニンニクを頂くことができないでしょう。

お前たちは前世でも夫や父であった雁の心を無にして、金の羽根を取り尽くしたことによって、そのあとからは白い羽根を生えさせ、もう金の羽根をいただくことはできなくなったんですよ。

このように、欲張りの心は、生まれ変わっても治りにくいものです。

だけど今、尼となってせっかく仏道修行しているにもかかわらず、欲張りの心にとらわれて人の心を無にするとは何事ですか」と、尼たちを厳しくしかったのでした。

 

にんにくの花

 

皆さんは、この話を聞いてどう思いましたか?

大事なことはまず1つ目、欲張りの心、ひとりじめしないという心です。

2つ目は、何かを頂いたことに感謝の心、気もちをもつことです。

欲張りの心というのは、感謝の気持ちがないから起こってしまうものです。

日蓮大聖人さまは、「欲張りの心にかられて、人に分け与えることができない人は、未来には馬頭という鬼に生まれ変わってしまいますよ」と仰せになられています。

例えば、お菓子をもらったら兄弟やお父さんお母さんに、これ頂いたからどうぞ、という気もちをもつことが大事な心です。

もっと大事なことは、御本尊さまに御供養するということです。

御本尊さまはいつも皆さんのことを見られていて、守って下さっています。

ですから、お年玉やお小遣いをもらったとしたら、その中から1円でも10円でも、100円でも良いですから、御本尊さまにいつもありがとうございますと、感謝の気持ちをもって御供養できるようになりましょう。

欲の心は不幸のもと、感謝の心は幸せのもとになることを覚えて下さい。