くまとありの恩(平成27年4月)

今日は「くまの恩にそむいた男」と「ありを助けて寿命をのばした小僧さん」の話をします。
このお話は中国の『経律異相』という古い書物に出てくるお話です。

 

はじめに「くまの恩にそむいた男」の話をします。

 

ある男が森へ木を切りにいきました。
ところが道に迷ってしまい、森の中をさまよっていると、日もすっかり暮れて、暗くなってしまいました。
おなかもすき、寒くなって心細くなり、またオオカミやふくろうの鳴き声が聞こえ、おそろしさにふるえあがっていると、今度は大雨がふってきました。

男は暗い中、やっと洞くつをみつけ、むちゅうで飛び込みました。
すると中には大きなくまがいたのです。

男はビックリして逃げようとすると、くまは静かな声で「こわがらなくていいよ」と言いました。
そして、男の休む場所をあけてくれました。

男は最初はふるえていましたが、くまの親切なたいどに安心し、雨がやむまで7日間もくまの家の洞くつにとめてもらい、飲み物やくだものをごちそうになりました。

 

男は心からくまに感謝して「くまさん、ほんとうにありがとう。このご恩は忘れません」と言って帰ろうとすると、くまは男に「自分はわけがあって、今このようなくまの姿となり、人のうらみをかってます。だから、どうか自分のことや、この洞くつの場所は、けっして他の人には言わないで下さい」とお願いしました。
そして親切に帰り道まで教えてくれました。

男は「もちろんです。ぜったいにしゃべりません」と約束しました。
男は教えられた通りの道を、わが家めざして歩いていると、1人の猟師に会いました。

猟師は、けもの道を1人でさっさと歩いてくる男を見て、不思議に思い男に「お前さんは猟師でもなさそうなのに、どうしてこの道がわかるのかね?どちらからきたのかね?くまかなにかえものを見なかったかね?」とたずねました。

男がだまっていると、猟師がまた聞いてくるので、男は「見たよ、大きなくまだよ。しかし、私の命の恩人だから教えられないよ」と答えました。

 

 

猟師は「人間は人間どうし助け合うのがあたりまえだよ。人間よりくまが大事なのかね?くまの居場所を教えてくれたら、お前さんにも分け前をやるからなんとか教えてくれよ」と男に強く言いました。

男は猟師のあいまいな言葉にのせられ、命の恩人のくまとの約束をやぶってくまの居場所を教えてしまいました。

 

やがて猟師はくまの洞くつへ行って、鉄砲でくまをしとめ、男のところへもどってきました。
そして、約束通りくまの肉の分け前を男にあげようとしました。

ところが、男がそれを受け取ろうと両手をのばしたとたん、男のうでが両ひじのところからちぎれてしまいました。

でも男は「あの大雨の7日間、くまはまるで親のように私を守って助けてくれた。それをうらぎったのだからこうなったのもとうぜんだ」と言って、深く反省しました。

 

猟師は不思議なありさまにおそれをなして、くまの肉をお寺に持って行き、僧侶に見てもらうと、僧侶はくまの肉を見て、「このくまは菩薩様がくまに姿を変えて、修行されていたもので、未来には仏さまになるお方だったのです」と言いました。

そしてその肉はだれも食べることなく、僧侶によって厚く供養されました。

 

このできごとを聞いたその国の王様は「今後、いっさい恩にそむくことを禁じます。もし守れなかった者はこの国より追放します」という命令を出しました。

以後、その国の人々はどんなに小さなことも恩にそむくことはなかったそうです。

 

次は「ありを助けて寿命をのばした小僧さん」の話をします。

 

むかし、あるお寺に8歳になったばかりの見習いの小僧さんがいました。

ある晩、その小僧さんの師匠である住職は、小僧さんの両親の夢を見ました。
「実は私たちのむすこの寿命はあと7日で終わります。どうかあとの7日間は私たちといっしょに過ごさせてください」と両親がなみだながらに手を合わせてお願いしている夢でした。

住職は次の朝、小僧さんを呼び「お前の両親がお前のことをたいへん心配しているので、7日間休みをあげるから、帰って安心させてあげなさい。しかし、8日目の朝にはもどってくるのですよ」と言って、小僧さんを両親のもとへ帰してあげました。

 

小僧さんはとつぜん7日間も休みをいただき、なつかしい両親に会えるということで、喜んで家に帰りました。
そして、山の下り坂にきた時、急に大雨がふりだしました。

ふと、足もとを見ると大きなありの巣穴があって、その穴めがけて雨水が流れこもうとしていました。

小僧さんは、なんとかありを助けたい一心で手を合わせ「仏さま、どうかたくさんのありたちをお助けください」と言って、お祈りをしました。

すると、不思議にも土のビンがあらわれました。小僧さんは、それをありの穴のうえに置いて、雨水が入るのをふせぎました。

 

小僧さんは実家に帰り、両親と思いがけない楽しい7日間を過ごし、8日目の朝お寺にもどりました。

住職は、元気な小僧さんの姿をみて、どうしたことかと、その理由を知ろうと瞑想しました。
すると小僧さんがありをすくった姿が見え、その功徳で寿命がのびたことを知りました。

 

住職は小僧さんに向かって
「実はお前の寿命はあと7日間だった。それで両親のところへ帰したのだが、あの大雨のなかでお前はたくさんのありの命を救った。その功徳でお前の寿命はあと80年のびたのだよ」と言いました。

 

小僧さんは、自分の寿命がきのうまでで、それがありを助けたことで長生きできることを知って、涙を流して喜びました。
そして、「良いことをすれば良い結果を生み、悪いことをすれば悪い結果を生む」という原因と結果の仏法を確信し、よりいっそう勉強と修行にはげみ、立派な僧侶になったということです。

 

みなさんも、むやみに生きものを殺したり、約束をやぶったりしないようにして、良いと思ったことは進んでするようにしましょう。

おわり

 

ろうそくの火