春季彼岸会を終えて

 本年も恒例の春季彼岸会を迎えました。この春秋の彼岸会につきましては、生前お世話になった方々、それぞれの各家先祖菩提や亡き父母等の追善供養をすることによりその恩を報ずるという意味があります。特に亡くなった方は臨終を迎えることにより、仏道修行を修することができなくなり、自ら功徳を積みかさねることができなくなります。ですから、私たちがお塔婆を建立し、亡くなった各菩提に御本尊様の功徳を送り届けることが肝要であり、それが最高最善の功徳を送る追善供養という報恩感謝の仏道修行という意味になります。

 末法の御本仏、宗祖大聖人様は『秋元御書』に、「謗国と申すは、謗法の者其の国に住すれば其の一国皆無間大城になるなり。大海へは一切の水集まり、其の国は一切の禍集まる。譬へば山に草木の滋きが如し。三災月々に重なり、七難日々に来たる。飢渇発これば其の国餓鬼道と変じ、疫病重なれば其の国地獄道となる。軍起これば其の国修羅道と変ず」と仰せであります。

 今正に、三災七難の内、疫癘(えきれい)や人衆疾疫(にんじゅしつえき)の難が世界中を襲い、新型コロナウイルスとして世の中を地獄道と化しているところであります。大聖人様御在世当時は、この三災七難が相次いで世の中を襲い人々を苦しめてきました。故に大聖人様は、同御書に「結句は此の国他国より責められ、自国どし打ちして、此の国変じて無間地獄と成るべし。日蓮此の大なる失を兼ねて見し故に、与同罪の失を脱れんが為、仏の呵責を思ふ故に、知恩報恩の為国の恩を報ぜんと思ひて、国主並びに一切衆生に告げ知らしめしなり」と、末法五濁悪世の様相を呈する世情を浄化矯正するため、また末法尽未来際に向かいそれぞれの時代を生きる人々のためにも、世のため人のため、国恩、一切衆生の恩を報ぜんがため、御本仏様としての御立場から衆生を憐愍し、身命を賭して末法における唯一無二の正法正義を弘め伝えられ、その出世の本懐として本門戒壇の大御本尊様を御図顕遊ばされました。

 そして令和の今日、有り難くも私たちは、時の御法主上人猊下の御裁可によって御開扉を予定されている日に、所属寺院に添書登山願を発行して頂き総本山大石寺に登山参詣すれば、一切衆生懺悔滅罪の根本道場たる奉安堂に御安置されている本門戒壇の大御本尊様に、御法主上人猊下大導師のもと内拝させて頂くことができます。この総本山への登山につきましても、近年日蓮正宗檀信徒の増加に伴い、時の御法主上人猊下の御慈悲によってあらかじめ御開扉予定日が決められ、その日に合わせて登山を計画すれば御開扉に参列することができますが、御宝蔵に本門戒壇の大御本尊様が御安置されている頃は、仮に総本山大石寺に登山しても時の御法主上人猊下の御裁可が下りるまで、当時の僧俗はすぐに御開扉をお受けすることができませんでした。そうした歴史を踏まえ、今私たちが定められた日に御開扉に内拝参列させて頂けることに感謝申し上げ、ましてや御法主上人猊下に信心倍増罪障消滅の御祈念を頂戴することに更なる感謝を申し上げるべきであります。

 そもそも大聖人様は私たち仏道修行者に対し、「仏法を習ふ身には、必ず四恩を報ずべきに候か」、「孝と申すは高なり。天高けれども孝よりも高からず。又孝とは厚なり。地あつけれども孝よりは厚からず。聖賢の二類は孝の家よりいでたり。何に況んや仏法を学せん人、知恩報恩なかるべしや。仏弟子は必ず四恩をしって知恩報恩をいたすべし」と、一切衆生の恩、父母の恩、国主の恩、三宝の恩の四恩を報ずることの大切さを説かれています。ましてや、「我釈尊の遺法をまなび、仏法に肩を入れしより已来、知恩をもて最とし報恩をもて前とす。世に四恩あり、之を知るを人倫となづけ、知らざるを畜生とす。予父母の後世を助け、国家の恩徳を報ぜんと思ふが故に、身命を捨つる事敢へて他事にあらず、唯知恩を旨とする計りなり」とも仰せになられ、報恩感謝の大事を忘れた者は、最早(もはや)人としての道を違えた畜生、乃至畜生にも劣ると厳しく仰せになられています。

 更に両親に対する孝行、孝養の道として、「世間の人々の思ひて候は、親には子は是非に随ふべしと、君臣師弟も此くの如しと。此等は外典をも弁へず、内典をも知らぬ人々の邪推なり。外典の孝経には子父・臣君諍ふべき段もあり、内典には「恩を棄てゝ無為に入るは真実に恩を報ずる者なり」と仏定め給ひぬ」と仰せであり、仏教に説かれる両親への報恩感謝の道は、真実の教えをもって両親に尽くすところにあり、世間でいう親孝行をもっていたずらに誤った孝行の道を成すことなく、両親が健在ならば共に信行の実践に励み、今は亡き両親ならば御本尊様の功徳を送り届け、真実の恩を報ずることが肝要であります。

 よって、日頃から父母、祖父母等近しい先祖やお世話になった方々の追善供養を行い、報恩感謝申し上げることがいかに大切なことであり、そうした追善供養の修行を忘れた不知恩の者は仏道修行者に非ず、畜生にも劣る者であると大聖人様が仰せになられていると拝し、お盆やお彼岸をはじめ祥月命日等、その時々にお塔婆を建立し追善供養の誠を尽くしていくことが、私たち仏道修行者のしかるべき姿であると心得て頂きたく存じます。

 去る春分の日、午後6時からの夕勤行の途中にも、宮城県をはじめとする各地で大きな地震が起こりましたが、そもそも地震列島と言われる我が国は、古来よりその大地の振動により多大な被害を被ってきました。大聖人様御在世当時にも、正嘉の大地震といわれる巨大地震が起こったことを、御書や鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』にも記されておりますが、令和の今日もいつどこで巨大地震が起こるかわかりません。地震研究者などが、ここの地域があぶないなどと研究をされてはおりますが、実際こうした自然災害は依正不二の原理によって起こる災いであります。ですから、予想もしない地域で突然、巨大地震が起こる可能性も充分にあり、ましてや邪宗謗法の多い地域は注意を要するところであります。また今、極度に人心が荒廃しているが故に、正報たる我ら人々の心根によって依報たる自然と合致し、様々な自然災害が起きることは必定であります。どうか皆さまには、数年前までは経済的格差社会が話題となっておりましたが、令和の今日、経済的格差に関係無く自然災害や疫病という、前触れも無く突如として起こり、身近に潜む不幸の姿が忍び寄ってきていることを十分に理解し達観し、寧ろ私たちは今この現況を決して悲観することなく、大聖人様が「大事には小瑞なし、大悪をこれば大善きたる。すでに大謗法国にあり、大正法必ずひろまるべし。各々なにをかなげかせ給ふべき」との御指南を拝し、今正に大法弘通の前兆が起きていると捉え、勇猛果敢に有意義且つ価値ある人生を送って頂きたく願います。

 現在、年度末を迎え、特に大学を卒業し社会人として新たな道を迎えるにあたり、自由が丘駅近くではそうした若い方々の喜び楽しむ姿を散見しますが、今なお東日本大震災で被災し避難生活を余儀なくされている方々が数万人にも及んでいること、また新型コロナウイルスの感染拡大によって、直接罹患し闘病されている方々、コロナ禍によってあらゆる悩み苦しみを受けている方々、医療従事者の労を惜しまず治療に当たる方々の存在を考えると、非常にやるせない気持ちになります。

 要するに、一方で喜び楽しむ方々がいれば、一方では悲しみ苦しみ、また懸命に働かれている方々がいるということが今日の現状であります。こうした世の中の現状をよくよく鑑み、また宗祖日蓮大聖人御聖誕八百年という大佳節を迎えた本年、今こそ四恩報謝の心をもって名実共にこの大慶事を寿ぐためにも、皆さまには御本尊様から不知恩の毀りをうけることがないよう、いよいよ信心強盛に一天四海妙法広布を目指して御精進の誠を尽くされ、コロナ禍や自然災害などの万難を排して力強く生き抜き、御本尊様の御冥加と諸天の御加護あらんことをお祈り申し上げます。