聞法の功徳(令和5年12月)

聞 法 の 功 徳(もんぽうのくどく)

                    令和5年12月 若葉会御講

 今日は今昔物語の巻の第十四に載っている、前世で犬やこおろぎだった人の話をします。
 むかし、美作(みまさか)の国(現在の岡山県)に蓮尊(れんそん)という僧侶がいました。幼いころから元興寺(げんこうじ)の住職のもとで修行にはげみ、『法華経(ほけきよう)』を習い、毎日読誦(どくじゆ)していました。そして法華経二十八品(にじゆうはつぽん)のすべてを暗誦(あんしよう)したいと誓いました。
 長年の修行の結果、法華経の序品から妙荘厳王本事品(みようそうごんのうほんじほん)第二十七までは暗誦することができましたが、最後の普賢菩薩勧発品(ふげんぼさつかんぼつぽん)第二十八だけはどうしても覚えることができませんでした。蓮尊は普賢品(ふげんぼん)の一句一句を数万遍唱えて覚えようと努力しましたが、どうしてもできません。蓮尊は夏季修行の期間に、仏さまに一心に祈り、朝昼晩と御祈念しては普賢品を唱え、唱えては祈りました。
 夏の修行の期間が終えようとしていたある日の夜、蓮尊の夢にかわいい童子(どうじ)が現われて、「私は普賢菩薩(ふげんぼさつ)の使いで来ました。あなたは法華経二十八品の最後の普賢品がどうしても暗誦できないで悩んでいますね。そのわけを教えてあげましょう。実はあなたの前世は犬でした。法華経の修行僧(しゆぎようそう)のお寺の床下(ゆかした)で、あなたは法華経を序品(じよほん)第一からずっと聞いていたのです。修行僧が最後の普賢品を唱えようとしたとき、あなたの母犬が床下から出ていったので、あなたもついて行きました。あなたは前世で法華経を聞いた功徳によって、現世で人間に生まれ変わり、しかも僧侶となって法華経を読誦することができたのです。しかし普賢品は聞かなかったので、なかなか覚えられなかったのです。今日その因縁を知ったので、今から、法華経読誦に励めば、必ず普賢品を暗誦することができるでしょう」と言いました。
 蓮尊はこの夢で自分の過去世を知り、なぜ普賢品が暗誦できなかったか、その理由もわかりました。その事があってから、蓮尊は、あれほど苦労しても覚えられなかった普賢品を、簡単に覚えることができました。そして、今まで以上に、法華経読誦と仏道修行に励みました。
 次は海蓮(かいれん)という僧侶の話です。むかし、越中(えつちゆう)の国(現在の石川県)に海蓮という僧侶がいました。若い時から『法華経』の教えを信仰し、日夜法華経読誦に励んでいました。海蓮は序品第一から観世音菩薩普門品(かんぜおんぼさつふもんぼん)第二十五まではすらすら暗誦することができましたが、あとの第二十六品、第二十七品、第二十八品をどうしても覚えることができませんでした。海蓮は残りの三品もなんとか暗誦したいと一生懸命努力しましたが、どうしても暗誦できません。海蓮は立山(たてやま)や白山(はくさん)という高い山に登りに行ったり、日本中のあらゆる修行場所へお参りして祈願しました。それでも、なにか物忘れでもしたかのように三品だけはなかなか暗誦できませんでした。
 そんなある日のこと、海蓮は夢を見ました。一人の菩薩さまが現われ、「お前さんが法華経の最後の三品を暗誦できないのは、前世の因縁によるのである。お前さんの前世はこおろぎであった。ある時、お寺の壁にとまっていた。そこに一人の僧侶がいて、法華経を読誦していた。こおろぎはじっと聞いておった。ところが第二十五品まで読んだ僧侶は一休みするため壁によりかかった。こおろぎはびっくりして逃げようとしたが、間に合わずそのままつぶされて死んでしまった。しかし、法華経二十五品を聞いた功徳によって、そのこおろぎは人間に生まれることができた。それがお前さんの前世だ。法華経第二十五品までは前世で聞いたために、すぐ暗誦できた。しかし、あとの三品は聞いてなかったので、なかなか暗誦できなかったのじゃ。その事をよく知っていよいよ法華経読誦の修行に励みなさい」と告げました。海蓮は、自分の前世がこおろぎだったことを知り、たった一遍法華経を聞いただけの功徳により、人間に生まれ、しかも僧侶となれたことを、心からありがたいと思いました。そして法華経の素晴らしさをつくづく感じました。海蓮はその後、ふっきれたように、修行に励み、法華経二十八品をすべて、すらすら暗誦することができました。
 この聞法の功徳とは、お経や仏教のお説法をただ耳で聞くことだけでも、素晴らしい功徳が得られることを言います。しかし、その法が真実正しい教えでなければなりません。もし間違った法を聞けば心も命も濁ってしまい、そのことに振り回されることになるのです。たとえば自分の悪口やうわさ話を聞いて、そのことを気にしてしまい、とらわれてしまえば、学校に行きたくなくなるかもしれません。また、友だち同士の会話、テレビやYOUTUBEなどを見ていて、知らないうちにそうしたものに影響されて、自分の話す言葉がだんだん悪くなったり、あまり良くない考え方をするようになったり、常にそうした心になったりすることもあります。
 ですから、そのような姿にならないためにも、毎日御本尊様に真剣に勤行・唱題して、御法主上人猊下さまのお言葉や、毎月お寺で習う仏教の話を真剣に読んで学びながら、年に一回でも多く総本山へ御登山参詣し、月に一回でも多く進んでお寺にお詣りすることによって、世の中の悪い影響を正して、心も命も清らかにしていくことがとても大切なことであることを、しっかりと覚えていて下さい。
 また、皆さんが毎日勤行してお題目を唱える声を聞いて、家で飼っている犬や猫や鳥、ベランダや庭にいる虫たちも救われるんだ、来世では人間として生まれ変わり御本尊さまに縁することができると思い、勤行や唱題をより一生懸命やって行こうと思うことも大切なことです。
 そして一番大切なことは、今日の話を通じて、お寺に行くと心も体も綺麗になり、気持ち良く毎日生活できるようになるよと、周りにいるお友達に少しでも信心の話をしてお寺に誘い、誰々と一緒に信心がしたいな、お山に御登山したいなと御本尊さまに祈り願っていくことです。また、もし皆さんの友だちのなかで、色々と悩んだり困ったりしている子がいたら、よく話を聞いてあげて信心の話をしてみて下さい。本当にその子の幸せを思い願うならば、皆さんにもできますよね?
 来週の日曜日は、昭和八年に建てられた妙眞寺の創立九十周年記念法要が行われますので、ぜひ家族そろって参加して下さい。そして十年後には妙眞寺の創立百周年を迎えます。その時、皆さんは何才になっているでしょうか?
 最後に、今年もあと三週間、その間に今年の反省をしながら、大晦日までに来年はどのような一年にするかを考え目標を立てて、令和六年の元旦を迎えて下さい。