袈裟を着けて生まれてきた子供(令和4年1月)

袈裟(けさ)を着けて生まれてきた子供

                       令和4年1月 若葉会御講        

 お釈迦(しやか)さまがコーサラ国の祇園精舎(ぎおんしようじや)に滞在(たいざい)していた時のことです。その国の王様は舎衛国(しやえいこく)の波斯匿王(はしのくおう)といい、仏さまの教えを真剣に信仰していましたので、国内には争いや疫病(えきびよう)、自然災害もなく平和で、人々は穏(おだ)やかに暮らしていました。
 そんなある日のこと、舎衛国で王妃(おうひ)が男の子を出産しました。驚(おどろ)いたことにその赤ん坊は生まれながらにして、袈裟(けさ)を身に着けていました。王妃がビックリしてその子を見つめていると、「今、祇園精舎にお釈迦さまはいらっしゃいますか?また、舎(しや)利弗(りほつ)さん、目連(もくれん)さん、迦葉(かしよう)さん、阿難(あなん)さんは皆お元気ですか」と話しかけてくるではありませんか。王妃はもう驚くばかりで、ぼうぜんとしていました。そして、不思議で偉大な力をもって生まれてきた我が子を授(さず)かったことに、なんとも言えない喜びがこみあげてきました。王様も、この不思議な王子の誕生に驚き、しばらく考えて「この王子はなんらかの因縁(いんねん)によって、前世のことを記憶して生まれてきたに違いない。お釈迦さまをお招(まね)きして、おうかがいしてみよう」と言いました。
 お釈迦さまは大勢の弟子たちと共に舎衛城にやってきました。そして、食卓の席についた所に、波斯匿王が王妃と共に王子を抱いて入ってきました。「お釈迦さま、この子は生まれたばかりなのに、袈裟を着けてお釈迦さまやお弟子さんがたの名前を知っているのです。どういうことなのでしょうか?」と尋(たず)ねました。
 お釈迦さまは、にこやかに笑って王子の顔をのぞきこみ、「やぁ、トリピタ、元気かね。あなたの願いは叶(かな)ったようだね」と言いました。すると王子は、「はい、ありがとうございます。仏さまにお会いできて、こんなにうれしいことはありません。ありがとうございます」と答えました。王様は、「この子の名前はトリピタというのですか。トリピタとはどのような意味があるのでしょうか」と尋ねました。お釈迦さまは、「トリピタとは、教(仏さまの法と教え)・律(僧侶の修行の規則)・論(仏法の解釈)」の三蔵を意味する言葉です。この王子は前世でこの三蔵を深く学んでいましたので、こう呼んでいます」と答えました。
 さらにお釈迦さまは、「波斯匿王よ、また修行僧たちよ、『善因善果(ぜんいんぜんか) 悪因悪果(あくいんあつか)』といって、人は皆、その人の行いすべて、善いことは善い結果として、悪いことは悪い結果として、その人の身の上に具わっていきます。これは、火で焼こうが水で流そうが、決して消えることはありません。今、トリピタが袈裟を着けて生まれてきたことも、将来出家して僧侶となり、立派に悟りを開いて成仏していくことも、彼の前世の行為によるものです」と言って、次のような物語を話し始めました。
 『遠いむかし、カーシ国の都の郊外の鹿野苑(ろくやおん)で、迦葉仏(かしようぶつ)という仏さまがお説法をしていた時のことです。その時の王さまは、クリキン王と言いました。ある日のことです。その王さまの一人息子である王子は、鹿野苑へ行って迦葉仏さまのお説法を拝聴(はいちよう)していました。それは「この世に生まれて来た本当の目的は、真理を極め、六道輪廻(ろくどうりんね)の苦しみから離れ、地位や名誉に執着(しゆうちやく)することなく、悟りを開いて成仏することである」というものでした。王子は将来の自分について考えていた時でしたので、何か大きく目の前が開けた気もちになり、一つの重大な決心をしました。城に帰った王子はクリキン王に、「私は王さまのあとをついで、この国を平和に治めることが私の将来あるべき姿と思っていましたが、今日、迦葉仏さまのお説法を聞いて、しょせん王位も生きている時だけの、はかない幻(まぼろし)のようなもの、私は未来世までつながる悟りを開きたいと決心しました。どうぞ、迦葉仏さまのもとで出家することをお許しください」とお願いしました。すると王さまは、カンカンにおこり、「王の命令として絶対に許さん」と言いました。
 王子はその日から、食事もせず夜になっても眠ることなく、ただ、ひたすら王さまの許しを願って座り続けました。1日たち、2日たち、3日たち、そして、とうとう1週間たっても王子の決心は固く、今まさに餓死(がし)するところで、ようやく王さまは、「お前の決心を認めて出家することを許そう。ただし、教・律・論の三蔵を学び終わるまでは決して私に顔を見せるではないぞ」と言いました。
 王子は大いに喜び、迦葉仏さまのもとで一心に修行し、やがて三蔵のすべてを学び終えました。王子は迦葉仏さまの許しを得て城にもどり、王さまをはじめ多くの人々に、自身が学んだ仏法を説いて聞かせました。王さまは立派な僧侶になった王子の姿を見て喜び、ついに信仰心をおこして、「供養のために何かさせて頂きたい」と言いました。すると王子は、「迦葉仏さまをはじめ、お弟子さん全員に食べ物や飲み物と衣類、寝具と薬を供養させて頂いてはどうか」と提案しました。
 王さまは大変喜び、迦葉仏をはじめ2万人のお弟子さんたちに供養しました。その時王子は、「仏さま、どうかこれらの供養の品々(しなじな)をお受け取り下さい。願わくは、次に生まれ変わる時にも、袈裟を身に着け、前世の記憶を忘れずに生まれることができますように」とお願い申し上げたのでした。』
 お釈迦さまは以上の話を終えると、「そのクリキン王の王子こそ、そこのトリピタなのです。その時の功徳(くどく)によって、今のトリピタの姿があるのですよ。また、父親のクリキン王は立派に信心を貫き、迦葉仏が亡くなったあと、その供養塔を建立しました。一同の者たちよ、白いものも黒いものも、すべてはその人の行為に基づくのです。これからは白い行為たる善行を求めて行うよう努力しなさい」と説き聞かせました。また、トリピタはお釈迦さまが言われたように、7歳の時に出家して僧侶となり、三蔵はまるで覚えていたかのように、わずかな期間でマスターして、立派な僧侶になったということです。
 皆さんも今、学校で様々な勉強をしているでしょう。それは、勉強した分だけ自分の知識となっていきます。あらゆる知識を積めば積むほど、小学生なら中学生になって、中学生なら高校生、高校生ならその後の進路に役立ち、いざ社会人として仕事をするようになった時も必ず役立ちます。そして、知識は自分の何ものにも代えがたい財産になっていきます。更に私たちは、毎日の勤行や唱題、お山に登山したりお寺に参詣したり、信心を頑張っていくと、仏さまの智慧が具わっていきます。その智慧を積んで行くと、かけがえのない皆さんの宝となり、その宝によって、自分の未来が必ず善い方向へと開けてきます。まだ、そんな先の未来まで想像できなくても、御本尊様を信じて正直に清く正しく、毎日の生活を送っていけば、自分の祈りや願い、目標に向かって前向きに努力することができるようになります。
 最後に、周りの友だちと違って、毎日勤行や唱題を行うことは大変かもしれませんが、信心修行の努力は必ず御本尊さまが見守り、応えてくれるでしょう。そして、『善い行いには善い結果が、悪い行いには悪い結果』が待っています。今年1年、たくさんの善い行いを心がけて、たとえ大変な思いをしても、嫌なことがあっても、御本尊さまを信じ、たくさんお題目を唱えて、すばらしい毎日を送って下さい。