5人の王子(令和3年12月)

5 人 の 王 子     

      令和3年12月 若葉会御講   

 むかし、インドのある国に、5人の勝れた王子がいました。その国の人たちは、勝れた能力を持った5人の王子を、「知恵(ちえ)の王子」、「技術(ぎじゆつ)の王子」、「端正(たんせい)の王子」、「精進(しようじん)の王子」、「福徳(ふくとく)の王子」と呼び合っていました。そして次のように5人を誉(ほ)め称(たた)えていました。
 「知恵」は人生の道しるべ、どんなに行きづまり、つまずいても、なやみ、迷える人生も、真っ白な霧(きり)で見えなかった闇(やみ)も、ぱっと晴れて明らかになるように、賢(けん)明(めい)な知恵で、明日の道が開かれる人は、敬(うやま)って知恵王子を称賛(しようさん)す。
 「巧(たく)みな技」は、豊かな人生の種(しゆ)、あらゆる道具を作り、生活の糧(かて)に、木にも生命をふきこみ、まるで生きた人間のように、工夫によって、機械が作られた人を助ける、人は感謝(かんしや)で技術王子を称賛す。
 美の世界は人生の安らぎ、「端正」の美は、心をなごまし命をうるおす。いやな気持ちも、晴れ晴れと、人は美を求め、美で救われる、人はこよなく端正王子を称賛す。
 「精進」こそは、人生を拓(ひら)く鍵、大海原(おおうなばら)の荒波(あらなみ)も、険(けわ)しき山々さえも、どんな苦難も、辛きことも、努力と勇敢(ゆうかん)な精進で、人は険しき道をのりこえて、七つの宝を手に入れる、人はこぞって精進王子を称賛す。
 「福徳」は、人生を究極の幸せ、福徳にはすべての徳が備わる、心の功徳、身の功徳、帝釈天(たいしやくてん)にも、梵天(ぼんてん)にも、転輪聖王(てんりんじようおう)にもなれる徳、仏の道を信じて、行じ、正法持つ大王になれる徳、人は信じて福徳王子を称賛す。
 以上のように5人の王子を称賛しました。また、5人の王子たちも、自分が1番だと思っていましたので、1つの提案(ていあん)がなされました。それは、よその国へ行って、その国でどれだけ喜ばれるか?誉め称えられるか?そのことで誰が1番かを決めようというものでした。5人の王子は、まだ行ったことのない国へ、自分が王子だという立場を隠して行くことになりました。
 まず、長男の知恵王子の行った国には、2人の長者がいました。国民の暮らしは豊かでしたが、国を代表する2人の長者の仲が悪かったので、国民の心は2つに分かれていました。知恵王子は、この2人の長者を仲良くさせようと思い、高価な果物と食べ物をと飲み物を用意して東の長者の屋敷に行き、「この贈り物は、西の長者から預かって来ました。『ちょっとしたいきさつから絶交(ぜつこう)してしまいましたが、なんとか仲良くならないものか』と、他国の私が使者の役目を仰せつかってきました」と言いました。すると東の長者は、「そうですか。実は私も和解を望んでいましたが、つまらない疑いの心で不仲になり、後悔していました。ぜひ西の長者に取り次いで下さい」と言いました。こうして、2人の長者は前にも増して親しくなり、国民の心も1つになりました。そして、これが知恵王子の知恵によるものであることが後でわかり、2人の長者は王子に感謝し、お礼としてたくさんの宝を王子に渡しました。王子はそれを国に持ち帰り、弟たちと分け合いました。
 次に、次男の技術王子が訪れた国は、技術を重んじる国でした。王子は木で人形を作り、その人形を自分の子供だと言って、王様の前で演技(えんぎ)をする機会に恵まれました。ところが、なぜかその人形はその国の王様を怒らせてしまいました。王子は、「申しわけないことをしました。私が息子を罰(ばつ)します」と言って、右肩のくさびを抜き取りました。人形はすぐさまバラバラになりました。王様は、人間だと思っていた王子の息子が、木の人形だと知ってビックリして、その技術に感心し、技術王子に多くの褒美(ほうび)を与えました。
 三男の端正王子は、他国に行ってもそのイケメンぶりによって、たちまちその国のアイドルスターになりました。その国の王様も、王子の端正な姿とすばらしい発言や振る舞いの美しさに感銘(かんめい)し、多くの金銀財宝を与えました。
 四男の精進王子が行った国では、栴檀(せんだん)の木が重宝(ちようほう)されていました。王子は山奥に流れる急流に、見たこともないような栴檀の木が流れて来るのを発見しました。王子はためらうことなく激流に飛び込み、その栴檀の木を王様に献上(けんじよう)しました。王様は、精進王子の勇気ある行動に感動し、ほうびとして大金を与えました。
 さて、五男の福徳王子が行った国は、とても暑い大国でした。灼熱(しやくねつ)の太陽が照り続け、毎日の気温が40度くらいの日が続いていました。その国では、王様のあとをつぐ王子がいませんでしたので、王様の命令で使者を使わし、使者はこの大国のあとつぎにふさわしい人を探していました。
 福徳王子は、1本の大木(たいぼく)の陰(かげ)で休んでいました。大木の陰は時間とともに動くはずなので、王子の休んでいる大木の陰は、いくら時間がたっても動くことなく王子に陰を作っているのです。そのことを発見した王様の使者は、このことを王様に報告しました。王様は、その若者こそ仏さまの御加護(ごかご)を受ける者であるといって、深く敬い、王の位をゆずりました。こうして福徳王子はその大国の王様になったということです。更にその大国に4人の王子が集まり、その大国を守るために助け合ったということです。
 その後、福徳王子が王位に就(つ)いたその国は、災害も、戦争も、伝染病もなくなり、平和な国となり繁栄(はんえい)していったということです。
 今日のお話では、5人の王子が出てきましたが、それぞれ秀(ひい)でた才能、個性豊かで、国民に慕(した)われ愛される王子でした。しかし、五男の福徳王子の持つ福徳は、長男から四男の才能をはるかに上回る仏さまのお力が具わる王子でした。5人の王子は誰が1番かを競い合いましたが、結果として王位に就くことになった福徳王子のもとに集まり、お互いを認め助け合い、その国の繁栄に力を合わせていくことになりました。
 皆さんも、得意なことがあると思いますし、世の中には優秀な才能を持って、医学や科学の世界、スポーツ界で活躍している人が沢山います。しかし、1番大切で持つべきものは何かは分かったと思います。それは、仏さまから頂くお力、「福徳」です。福徳は功徳とも言いますが、この福徳は皆さんが毎日、御本尊様に勤行唱題したり、総本山へ御登山したり、お寺に参詣することによって頂くことのできる不思議なお力です。この福徳を沢山積んで行けば、これから先、皆さんの未来において、迫り来る様々な困難も乗り越え、皆さんの祈りや願いも叶えることができるようになります。そして、本当の幸福、幸せの意味が分かるようになると思います。どうか、皆さんには毎日御本尊様に手を合わせ、毎日を有意義に大事に過ごして、令和3年を無事に終え、令和4年のお正月を迎えて下さい。