父母の恩(平成27年5月)
犬は3日飼えば飼い主の恩を忘れないと言われ、動物でさえ育てられた飼い主の情愛や恵みに感謝の心を忘れないと言われています。
まして私たち人間は、生み育ててくれたお父さんやお母さんに対する恩を知り、その恩に報いることは人として最も大事なことの1つです。それが父母の恩ということです。
そこで今日はお釈迦様が説かれた『父母恩重経』に説かれているお話を紹介します。
お釈迦様は
「皆さん、今日は父母の恩について話しましょう。すべての人間は因果によってこの世に生まれてきます。
因とは結果をもたらす直接の原因で、縁とは外からこれを助ける間接の原因です。
人はこの世に生まれ変わる前の、善いこと悪いことの行為の結果を因として、父母を縁として生まれてきます。精神的なものは父より授かり、体は母の胎内で育っていくのです。
したがって父がいなければ生まれてくることもなく、母がいなければ育つことはありません。このように人はこの世に生まれてくる以前より父母の恩を受けています」
と、お説法されました。
お釈迦様のお説法を聞いている人たちの中には、父母のもとを離れて修行している僧侶、父母と一緒に暮らして養っている子、子供に養われている親、親に養われている子供等、様々な人がいましたが、皆、それぞれ親子の深い因縁を感じました。
お釈迦様はさらにお説法を続け、
「母親は、子を宿して10ヶ月間、子供のことだけを思って生活しますから、子供はお腹のなかですくすく育って大きくなっていきます。しかし、母親はやせ細り、顔色も悪くなり、時には歯が抜け落ちることもあります。
ところが、子供が生まれると母親は今までの苦しみをいっしゅんのうちに忘れ、最高の宝物を得た満足感にひたり、喜びのなかで子供を清め、抱きかかえるのです。
そして一生の間、母親は子供の幸せを生きがいとして生活していきます。
食べるものがないときは、自分は食べないでも子供に食べさせます。
自分はぼろぼろの服を着ても、子供にはきれいな服を着せます。
ここに父母の恩を10種あげてみましょう。
① 妊娠(子供がお腹に宿ること)したら胎内の子供が無事生まれるように食べ物や日常の生活に気をつける恩
② 出産の苦しみを乗り越える恩
③ 出産後、自分の苦しみを忘れ誕生を喜んでくれる恩
④ 母乳を与え大事に養い育ててくれる恩
⑤ おしっこをしたら、親はおしめを取りかえ風邪をひかないように気づかってくれる恩
⑥ 大小便など、よごれたものを洗濯してくれる恩
⑦ 食べ物は、苦いもの、辛いものは親が食べ、おいしいものだけを子供に与える恩
⑧ たとえ親がかわって罰を受けても子供をかばい守ってくれる恩
⑨ 子供が出かけた時など、帰ってくるまで無事を祈って心配してくれる恩
⑩ 子供が胎内にいる時から大人になるまで、常にいつくしみ、はぐくんでくれる恩です。
このように父母の恩は山よりも高く、大地よりも厚く、海よりも深く、空のように無限で大きいものです」と言われました。
お釈迦様のお説法を聞いていた人たちは、いまさらながら親とはありがたいものだと聞き入っていましたが、ここで弟子の阿難が「では、どうすれば親の恩にむくいることができるのでしょうか」と質問しました。
お釈迦様はニッコリわらって、
「実にいい質問です。まず外出したときなど、珍しいもの、おいしいものがあったらおみやげに買ってかえり、父母に差し上げなさい。お父さんやお母さんはきっと喜び感謝して、仏様にお供えするでしょう。
そのことによって、功徳善根を積むことができます。
次に、父母が病気になったら必ず看病しなさい。そしてお医者さんから良い薬をもらい、早く病気が治るように祈りなさい。また、もし父母が仏様を敬い、信じることができない人だったならば、
まず五戒(①生きものを殺さない②どろぼうをしない③男女の道を乱さない④うそをつかない⑤ 酒におぼれない)を教え、次に仏様の尊さを教え、仏法を信仰するようすすめなさい。
いかによい所に住み、おいしい食べ物を食べ、きれいな服を着て、何不自由ない暮らしができても、仏様を敬う心がなければ、心のすき間に悪魔が入り込み、その人は怒りの心、欲ばりの心、おごりの心、おろかな心に支配され、三悪道という苦しみの境界におちいり、身をほろぼし、家もほろぼし、地獄の苦しみを受けることになりますから、子は親に対し仏様への信仰の心を起こさせることを第一としなさい。
この教えを『父母恩重経』といいます。
この教えをよく行じれば、過去世からの不幸の因縁を消して、父母の恩に報いることができます」と言って、お釈迦様のお説法は終わりました。
日蓮大聖人様は父母への孝養について、
「御本尊様への信仰を持つ人は、父母の恩を報ずることになるのです。それは御本尊様に功徳によって父母の成仏がかなうからです」、「子供の成仏は親の成仏、親の成仏は子供の成仏です」と言われ、「自分自身が正しい信心の功徳によって幸せになっていけば、父母も同じように幸せになっていきます」と言われています。
さらに「子供は天からふってきたものではなく、地からわいたものでもなく、親の分身ですから、よく親の言うことを聞いて心から親に尽くしなさい」と言われています。
皆さんはまだお父さんやお母さんのもとで学校へ行き、生活をしています。
ですから、毎日朝晩の勤行や唱題をしっかりと行い、お母さんの家事のお手伝いをしたり、日頃からお父さんやお母さんに対して感謝の心を持って、それを行動にうつしていきましょう。
そして、皆さんが立派な大人になった時、今まで育ててくれた恩に報いることができるようになりましょう。