八つの徳(平成31年3月)

むかし、インドのガンジス川の上流にアーラビーという国がありました。
その国にハッタカというお金持ちの長者がいました。

その人はむかし、鬼神(きじん)に食べられそうになった時、お釈迦さまに助けられ命拾いしたことがありました。

 

ある日のこと、お釈迦さまは弟子たちに向かって「皆はハッタカという長者を知っていますか?」と尋ねました。

「はい。知ってます。その方はいつも私たち仏道修行者を敬い、真心の御供養をされる方です」と、皆は答えました。

お釈迦さまはその言葉を聞いて、
「そうです、あのハッタカは、とても真面目で正直な信心をしています。
その功徳によって彼は7つの徳を備えています。

1つに、尊い仏法を清らかな心を持って、正直に信心する事ができる徳です。2つに、在家の信徒として守るべき戒(かい)(決まり事)をきちんと守ることができる徳です。3つに、彼はいつも謙虚な心を持っており、自分の行動を常に反省し、罪障消滅(ざいしょうしょうめつ)を願うことのできる徳です。

4つに、自分のあやまりを素直にみとめ、人にそのことを告白することができ、人の話を聞いていくことができる徳です。5つに、法を求める心が常にあり、本をよく読み勉強し、人の話をよく聞いて、豊富な知識を得て、自分を磨くことのできる徳です。6つに、彼は信仰心に動揺がなく、どんなことがあっても信仰を止めることがない徳です。7つに、物事の道理を、仏法をもって判断し、その信仰の功徳によって仏さまの智慧と力を得ることのできる徳です。

修行僧たちよ、ハッタカは素直な信仰心によって、以上の7つの徳を備えることができました。
どうか、あなたたちも正直で素直な信心を心掛け精進しなさい」

と、説き聞かせました。修行僧は、その話を聞いてハッタカに負けないように信心修行していこうと心に誓いました。

 

ある日、1人の修行僧がハッタカの家を訪れこう言いました。
「先日、お釈迦さまが、あなたはまれに見る素直で正直な信心をしていると言われ、数々のあなたの信心の徳についてお話をされ、私たちに、あなたに恥じないような信心修行をして行きなさいと言われましたよ」と話しました。

するとハッタカは、恥ずかしそうな顔をして、
「そこに在家の信徒の人はいましたか?」と尋ねました。

「いいえ、私たち修行僧だけでしたよ」と修行僧は答えました。

ハッタカは「ああ、そうですか。良かった。安心しました」と言いました。
修行僧は何のことなのか言葉の意味をよく理解することができませんでした。

修行僧は、ハッタカの家から帰ってきて、そのことをお釈迦さまに報告しました。

お釈迦さまは笑みを浮かべてうなずき、
「そうですか。それは自分が誉められたことを他の人に知られたくなかったから、そう言ったのでしょう。彼は誉められたいとか、人からこうしてもらいたいとか、あれが欲しいとかという欲の心が少なく、彼は欲にとらわれないという徳もあったようですね。ハッタカは8つの徳を備えた人です」

と教えられました。
修行僧たちは、ますますハッタカの純真な信心を心から見習って行こうと決心しました。

 

 

さて、皆さん、私たちもハッタカみたいな信心、心掛けをすることができるでしょうか?なかなか難しいことですが、ハッタカの8つの徳を私たちの信心、日常生活に当てはめてみましょう。

①正直な心…正直といいうことは良いことも悪いこともありのまま、ということです。自分の心に正直に生きるということは誰にでもできますが、仏さまの心に合わせて生きることは簡単ではありません。それは我見という自分勝手な考えを起こしてしまうからです。

②規則を守る心…学校でも社会でも決められたこと、約束事というルールを守って、はじめて目的が達成されます。信仰もルールを守らないと目的、目標が達成されません。ルールはきちんと守りましょう。

③謙虚に自分を反省する心…つらい苦しいことがあっても、それは全部自分に原因があることを知るべきであり、また自分に誤りがあったら素直に認め反省することです。この反省の心がないと、自分も成長できないし、他の人も不幸にしてしまいます。

④人の話を素直に聞く心…これがないと、自分にとって都合のいいことは聞くけれど、自分のことを認めてくれない人は嫌いになります。人の話をよく聞いて、自分に誤りがあったら素直に認め、改める心は幸せになる近道です。

⑤求道の心…勉強好きな人はあまりいないと思います。ゲームやマンガが楽しいでしょう。しかし、知らないことを知っていく楽しみは、ずっと奥深いものです。

⑥不退転(ぶたいてん)の心…これは御本尊さまを信じて疑わない、日蓮大聖人さまの教え以外に幸せになる道はないと深く信じることです。また、仏さまの教え以外に正しい生き方はないと信じることが大切です。

⑦御仏智(ごぶっち)を信じる心…素直に信心修行に励んでいくと、御本尊さまが素晴らしい智慧を授けて下さり、正しい道を進んでいけます。

⑧欲にとらわれない心…人には必ず欲望があり、欲の心には限りがなく、行き着くところ餓鬼道(がきどう)という不幸な世界に落ちてしまいます。

 

皆さんも、この8つの心が持てるよう心掛け、決して周りの人たちに振り回されないよう、日々、正しい行いができるように気をつけていきましょう。

また、勤行や唱題をしっかりと行って、自分の心を磨いていきましょう。