正 直

 宗祖日蓮大聖人様は『法華題目抄』に、「仏と申すは正直を本とす」と仰せになられ、仏道修行者として末法唯一無二の正法正義を信じ行ずる我々は、正直なる行体行儀を心得て、信行の実践に励みつつ日々の人生を送ることの大事、一生成仏の境界を得るためには正直を旨とすることを説かれています。実際、私の師匠である御先師日顕上人も弟子一同に対し、ことあるごとに『正直であれ』との御指南をなされてきました。

 大聖人様は『戒法門』に、「五戒を破る中に不妄語戒を破るは罪深き戒にて候。其の故は世間の人妄語し候へば、冬は夏になり、春は秋になり候。故に冬温かにして草木出生して花さき菓ならず。夏はさむくて物そだたず。春・秋も此を以て知るべし。(中略)世間の人虚事をする故に、春夏秋冬たがひて世間の飢渇是より起こり、人の病これより起こる。是偏に妄語より始まれるなり」と仰せになられておりますように、ひとたび世間に目を向ければ、日々メディアによって、世の中の人々の嘘偽りの姿が横行し、そこから犯罪事件へと発展している報道がなされております。ましてや、大聖人様の御金言のなかにも、天変地夭や自然災害、農作物の不作や疫病の流行等の原因が、世の人々の妄語の姿にあることも明示されております。

 当然、仏教の教えにおいても、大聖人様が『当体義抄』に、「正直に方便を捨て但法華経を信じ、南無妙法蓮華経と唱ふる人は、煩悩・業・苦の三道、法身・般若・解脱の三徳と転じて、三観・三諦即一心に顕はれ、其の人の所住の処は常寂光土なり。能居・所居・身土・色心・倶体倶用の無作三身、本門寿量の当体蓮華の仏とは、日蓮が弟子檀那等の中の事なり。是即ち法華の当体、自在神力の顕はす所の功能なり。敢へて之を疑ふべからず、之を疑ふべからず」と仰せにように、末法の今日、仏教の一連の道理を拝して、いかに大聖人様説くところの南無妙法蓮華経の教えが唯一無二の正法正義であるのか、お釈迦さまが説かれた八万法蔵とも言われる膨大な教え、お経典の中でも唯法華経こそが、声聞・縁覚の二乗、女人、畜生、地獄等、十界全ての衆生の成仏が説き明かされ、更にお釈迦さまの久遠実成、いわゆる久遠本地の開顕による発迹顕本がなされ、真実本懐の教えが説かれているのが正に法華経であり、法華経以外の方便権経は、法華経に誘引すべく真実本懐にはほど遠い、無利益無得道の教えであることは、言うまでもありません。

 末法令和の今、世間の人々はあまり真剣に考えずに宗教を信じ論じておりますが、昨今の新興宗教問題を始め、あらゆる仏教、神道などの他宗教が存在しており、本当に成仏得道し幸福なる人生を歩むことができる仏さまの教えが何処にあるのか、それをいとも簡単に判断したり、求めようともしない姿、日本人特有の、正月は神社に初詣、結婚式は華々しく教会で、葬式や法事は近隣の寺院へ依頼する姿は、正に諸外国より宗教のデパートとも言われ、揶揄される所以であります。

 もともと日本国は神国とされておりますが、大聖人様は『北条時宗への御状』に、「夫此の国は神国なり。神は非礼を稟けたまはず。天神七代・地神五代の神々、其の他諸天善神等は、一乗擁護の神明なり。然法華経を以て食と為し、正直を以て力と為す」と仰せのように、あくまでも神々等の御加護を頂くためには、正しい拝し方、礼儀がなければ、諸天善神の守護を頂くことはできません。更に、正しい信仰を行ずるなかでも、大聖人様は『法門申さるべき様の事』に、「先づ世間の上下万人の云はく「八幡大菩薩は正直の頂にやどり給ふ。別のすみかなし」等云云。世間に正直の人なければ大菩薩のすみかましまさず。又仏法の中に法華経計りこそ正直の御経にてはをはしませ。法華経の行者なければ大菩薩の御すみかをはせざるか。但し日本国には日蓮一人計りこそ世間・出世正直の者にては候へ」と、正直を第一義に正法信仰を行っていかなければならないことを御教示であります。世間でも、「正直の頭に神宿る」とも言われておりますように、いかに毎日を嘘偽り無く正直に送るか、これは至極当然のことではありますが、その場しのぎでついつい嘘をついたり、自分を正当化するために不正直、不確実な発言・行動があったならば、せっかく積み累ねた仏道修行の功徳利益を台無しにしてしまうことになります。

 更に私たちは、そうした嘘偽りが横行する三毒煩悩渦巻く、末法娑婆世界に身を置く愚鈍の衆生でありますからこそ、少しの油断や隙があれば、これ幸いにと、あらゆる悪鬼魔神や悪縁が忍び寄ってくるのであります。正に大聖人様が、『最蓮房御返事』に「いかに我が身は正直にして、世間出世の賢人の名をとらんと存ずれども、悪人に親近すれば、自然に十度に二度三度其の教へに随ひ以て行くほどに、終に悪人になるなり。釈に云はく「若し人本悪無きも、悪人に親近すれば後必ず悪人と成り、悪名天下に遍からん」云云。所詮其の邪悪の師とは今の世の法華誹謗の法師なり」との如く、悪知識や邪宗謗法の害毒が蔓延る今、まずは私たち自身が世間の悪縁に誑かされないよう気を引き締め、誰しもが御授戒時に御本尊様に誓った、「爾前迹門の不妄語戒を捨てて、法華本門の不妄語戒」を固く持つことが肝要であります。

 どうか皆様方には、宗祖日蓮大聖人御聖誕八百年慶祝記念総登山を間近に控える今、本年の意義を拝しつつ、今こそ今生現世における我が使命と責務を果たし、多大なる功徳利益を積み累ね、尊い人生と有意義かつ未来世に繋がる一生成仏の境界を得られるよう、信心の原点に立ち返り、まずは『正直』という二文字を心に留め、より一層の御精進をお祈り申し上げます。