誓 願 の 功 徳(令和4年10月)

誓 願 の 功 徳(せいがんのくどく)

                   令和4年10月 若葉会御講

        
 むかし、美作国(みまさかのくに)英多郡(あいだぐん)(現在の岡山県英田郡)に鉄を多く含(ふく)む石の山がありました。称(しよう)徳(とく)天皇の時代のことです。美作国(みまさかのくに)の国(こく)司(し)(現在の県知事)はその土地の人の中から十名の力持ちの男を選んで、その山で鉄を掘らせました。十名の力自慢の男たちは穴の中で、どんどん鉄を掘り出しました。
 そんなある日のこと、突然穴の入り口付近で崖崩れ(がけくずれ)が起こりました。そして、だんだん入り口の穴が狭くなっていきます。穴の中にいた男たちはびっくりして、われ先に入り口に向かって走り、やっとの思いで外に出ることができました。ところが一人だけ間に合わないで、穴の中に閉じこめられてしまいました。穴の入り口は岩や土でうまってしまい、外から助け出すことができません。
 国司や同僚、そしてその男の妻子や村人たちはとても悲しみました。やがて、その男の妻や子供たちは、生きうめになった男の供養のためにと、毎日法華経を読み、法華経を書写し、初七日、二七日、三七日と七日ごとに法事を営み、いつしか七七日(四十九日)忌を迎えようとしていました。
 ところが、穴の中に閉じこめられた鉄堀りの男は無事でした。出口の穴は塞(ふさ)がったけれども、穴の中には空間があり、男は生きうめにならずにすんだのです。しかし、水もなければ食べ物もありません。男は死を待つしか方法はないと思い、死を覚悟しながらも、「仏様、私は以前、一番ありがたいお経といわれている法華経を書写する誓願を立てました。しかし、まだ完成しないうちに、このたびこのような災難にあってしまいました。私は仏様の約束を何としても果たしたいと思っています。もしこの命を助けていただければ、必ず書写をやりとげます。そうすればもう何も思い残すことはありません」と、仏さまに一心に祈り続けました。
 しばらくすると岩の中から一人の若い僧侶が食べ物と水を運んできたのです。僧侶はそれから、たびたび男のもとに食べ物を運んできました。僧侶は男に、「あなたの妻子は毎日法華経を唱え、書写しています。そして七日ごとに法事を営み多くの食べ物を供養します。私が運んできたこの食べ物はあなたの妻子が供養したものです。あなたとあなたの妻子が法華経を読誦(どくじゆ)する功徳(くどく)で、あなたは護(まも)られ、きっと助かるでしょう」と言いました。
 男は涙を流して喜び、法華経読誦の功徳を身をもって体験しました。男はますます真剣に法華経を読誦しました。若い僧侶が出てきた場所は、すこし広くなっていました。男がそこへ行ってみると上の方に光が指しています。人が通れるくらいの穴が開いているのです。男は「助かる!!」と、確信しました。生きうめになって四十九日目のことです。
 そして、上の方でなにか騒(さわ)がしい物音がします。この山奥に数十人の人たちが葛(くず)という草を取りにきていたのです。男は穴の光が人影でゆれるのを見ると、「助けてくれ! 助けてくれ~!」と何度も何度もありったけの声で叫びました。山に来た人たちは皆葛取りに夢中でしたから、はじめのうちは穴の中の声に誰も気づきませんでした。しかし、そのうち穴からの叫び声に気づき、「この穴の中に誰かいるぞ」と皆が集まってきました。これで試してみようと石を葛に結びつけて穴の中に落としました。穴の底にいる男がこれを引っぱります。
 「お-い。やっぱり誰かいるぞ!!」葛取りの人たちは葛でかごを作り、それを縄で結んで下に降ろしました。穴の中の男は大喜びで、このかごに乗り縄を引っぱりました。それを合図に皆が男を引き上げて見ると、その男は穴に閉じこめられて死んだと思われていた鉄堀りの人でした。皆はびっくりして喜び合い、男を家に連れていきました。家族は狂わんばかりに喜びました。そして男の話を聞き、法華経読誦の功徳によって死の淵からよみがえったことを知りました。
 男は国中(くにじゆう)の人びとから志をつのり、写経の紙を買い、多くの人の協力によって『法華経』のお経文をすべて書写し、仏さまに供養することができました。
 死を覚悟するような災難に遭いながらも『法華経』書写の志を失わず、法華経を信じた功徳によって、四十九日ぶりに地上によみがえり、みごと仏様さまとの誓願を果たすことができたのです。
 皆さん、誓願の志、目標目的をしっかり立てて、お題目を唱え続けて、最後まで忘れずにそれを果たしていこうとすると、御本尊様からの計り知れない不思議な力が必ず頂けるのです。皆さんも約束を果たそうとすると、それなりの努力と強い意志が必要ですが、それを御本尊様に祈ると、大きな力を頂いて約束を果たすことができるようになるのです。
 このたび、大聖人様が御聖誕されて八百年という月日が流れ、そのお祝いの法要が令和3年に行われました。コロナ禍でその記念登山は、まだ行われていませんが、コロナ禍が落ち着いたら行われると思います。
 そして、今月22日、23日には、年に1度の宗祖日蓮大聖人様の御会式法要が行われます。御会式法要とは、大聖人様が今から八百年前の鎌倉時代に御出現されて、南無妙法蓮華経の教えを説かれ、本門戒壇の大御本尊様を顕(あらわ)されて、末法の時代に御出現されたすべての目的を果たされ、弘安5年10月13日に御入滅(ごにゆうめつ)され、今は仏さまの世界で常に私たちを見守られており、そのお姿に感謝し、お祝いし、「広宣流布(こうせんるふ)」という大聖人様が「南無妙法蓮華経の教えを、全世界の人々に教え伝えていきなさい」とのお言葉を、皆さんが行っていくことを御本尊様にお誓い申し上げる法要です。皆さんが全員、誓願の志をもってお題目を唱え続け、大聖人様の説かれた正しい仏法の教えを未来に伝えていけるよう、この世で唯一正しい仏さまの教えを修行する、日蓮正宗の信徒としての誇りと使命をもってがんばって下さい。大聖人様は、「凡夫は志ざしと申す文字を心へて仏になり候なり」と、大聖人様は仰せになられています。御本尊様に対する広宣流布の信心の志を一番大事にしていき、どんなに苦しい時も、楽しい時も、しっかり毎日の勤行と唱題を真剣に行い、自分の立てた目標達成に向かい努力していくと、その目標を達成できるだけでなく、今日のお話にあった男のように、いざという時に必ず諸天善神という神さまたちが、皆さんのことを守ってくれます。そして、規則正しく毎日の生活を送り、世の中の多くの人たちが幸せになるように、世界が平和になりますように、コロナ禍が早く終わるよう御本尊様に祈っていきましょう。