仏さまの御慈悲(令和2年8月)

 今、世の中では新型(しんがた)コロナウイルス感染症(かんせんしよう)が広まり、将来(しようらい)に対する不安、この感染症がいつ終わるのかという、異常(いじよう)な雰囲気(ふんいき)がただよっています。また、緊急事態宣言(きんきゅうじたいせんげん)の期間中(きかんちゅう)に、「自粛警察(じしゅくけいさつ)」といわれる人々が現れました。行政(ぎょうせい)から出された自粛要請(じしゅくようせい)に応じない人たちやお店などに対し、勝手(かって)に取り締(し)まりや攻撃(こうげき)を行う人のことをいうようです。なかでも、お店に嫌がらせの電話をかけたり、張り紙をしたり、県外ナンバーの車にあおり運転をしたり、全国各地で被害がでました。そうしたことを恐れて、東京都のとなり、千葉県でも東京の足立(あだち)ナンバーの車に、わざわざ「千葉に住んでいます」という張り紙をして運転する人もいたようです。

 

 御法主日如上人猊下(ごほっすにちにょしようにんげいか)さまは、「平和であるのも争(あらそ)いが起きるのも、幸せになるのも不幸になるのも、要は人の心次第(しだい)でありますから、世の中の多くの人々が、たとえいかなる人であろうと、あらゆる人々を救わんとされる仏様(ほとけさま)の大慈大悲(だいじだいひ)の心を心として、互(たが)いに支え合っていけば、今日、これほどの悲惨(ひさん)で不幸な事件や事故は起こらないはずであります」と仰(おお)せられ、悲惨な事件や事故が起こる真の原因は、人々の心にあることを御指南されています。

 

 そこで今回は、猊下さまの御指南に仰せの仏さまの大慈大悲のお心を我が心とするとはどのようなことなのかを考えてみたいと思います。

 私たちが毎日の勤行で読んでいる『法華経方便品(ほけきょうほうべんぽん)』には、「舎利弗(しゃりほつ)、如来(にょらい)の知見(ちけん)は、広大深遠(こうだいじんのん)なり」とのお経文(きょうもん)があります。これは、お釈迦(しゃか)さまがお弟子(でし)の舎利弗に対し、仏さまが広大で深遠な智慧(ちえ)によって人々を導いてきたことを説かれたところです。その智慧の一つに「無量(むりょう)」、すなわち「四無量心(しむしょうしん)」があります。

 四無量心とは、仏さまが人々を成仏に導(みちび)くために持たれた四つの量りしれないほどの大きな心で、「慈無量心(じむりょうしん)・悲無量心(ひむりょうしん)・喜無量心(きむりょうしん)・捨無量心(しやむりょうしん)」をいいます。①慈無量心とは、人々に安楽を与える心(与楽(よらく))②悲無量心とは、人々の苦しみを抜き去る心(抜苦(ばっく))③喜無量心とは、人々が安楽を得たことを嫉(ねた)まず喜(よろこ)ぶ心④捨無量心とは、人々を平等に念じて愛憎(あいぞう)の心を捨てることをいいます。つまり慈悲(じひ)とは、苦悩(くのう)に喘(あえ)ぐ一切衆生(いっさいしゅじょう)を真の幸福へ導かれる仏さまの抜苦与楽(ばっくよらく)のお心と、衆生教化(しゅじょうきょうけ)のお振る舞いを意味するのです。

 末法(まつぽう)令和の時代に生きる私たちを成仏に導いて下さる、幸せにして下さる唯一(ゆいいつ)絶対(ぜったい)の仏さまは、宗祖日蓮大聖人(しゅうそにちれんだいしようにん)さまだけです。

 大聖人さまは、建長(けんちょう)5(1253)年に南無妙法蓮華経の教えを説かれ、鎌倉時代、今と同じように大地震や大雨大風、逆に雨が降らないことによって作物が実らず食べるものが無くなる飢饉(ききん)、疫病等(えきびょうとう)の天災(てんさい)や戦争の絶えない悪世(あくせ)末法(まっぽう)の時代に生きる人々が救われる道は、南無妙法蓮華経の教えを信仰することであると教えられました。当時の日本では、浄土宗(じょうどしゆう)などの南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)の念仏の教えや、真言宗(しんごんしゆう)、禅宗(ぜんしゆう)などの間違(まちが)った教えである邪宗(じゃしゅう)が流行(りゅうこう)していました。大聖人さまはそれらの謗法の間違った教えを正しく指摘(してき)し、人々に妙法の教えを弘め、救っていくことを決意されたのです。

 このことにより、邪宗の僧侶や信徒の恨(うら)みを買い、「大難(だいなん)四ヶ度(しかど)、小難(しょうなん)数知れず」と言われるように、詈(ののし)られたり、暴力をもって迫害(はくがい)されたり、お住まいを燃やされたりしました。また、鎌倉幕府の権力者の陰謀(いんぼう)によって、無実の罪を着せられ、首を切られ殺されそうになったり、伊豆や佐渡の島に罪人として流罪(るざい)の罪に処せられてしまいました。それでも大聖人さまは決してそうしいた人たちを恨(うら)まず、くじけず負けること無く、母親が慈愛をもって赤ん坊にお乳を与え育てるように、世の中のすべての人々の苦しみを取り除き、安楽(あんらく)な人生を送れるように、仏さまとしての大慈大悲のお心をもって、お亡くなりになるまで妙法の教えを説かれ続けてきました。

 

 私たちはまず、幸せにして下さる南無妙法蓮華経の教えを説かれた日蓮大聖人さまに感謝の思いをこめ、大聖人さまが言われるように、しかっりと御本尊さまを信じて、勤行・唱題を一生懸命行い、仏さまの尊い智慧(ちえ)と慈悲の心を自分も持てるように頑張って行きましょう。そして、今は新型コロナウイルスによって、世の中が混乱していますが、この混乱が終わっても世の中は、次の新しい混乱が必ず出てきます。そうした中で大事なことは、常に清らかな心を持つこと、まずは、自分が幸せな人生を送ることが大事ですが、仏さまが全ての人たちの幸せを願ったように、あらゆる人が幸せになることを自分の幸せにすることができるような心をもてるようになりましょう。「えっ、人のことまで」と思うかもしれませんが、すべての人が幸せになり、その喜びを分かち合うことができるような心の余裕が持てるようになった時、はじめて1人前の人になれるでしょう。

 そして、世の中の人が不幸になる原因は、悪い心、間違った考えを持つからです。自分の思い描(えが)いた人生を送れるようになることだけを幸せと感じたり、お金持ちになって何不自由無い生活、高級な場所に住み、高級な車に乗り、高級な食べ物を食べることに幸せを感じること、これは世の中の多くの人たちが考えることです。しかし、仏さまはそこに人々が不幸になってしまう原因があると教えられています。私たちは、まず家族全員が幸せで楽しい気持ちでいっぱいになり、友達や親戚の人たちが幸せになることを願い、その為にも大聖人さまの正しい教えを信じ、南無妙法蓮華経のお題目を御本尊さまに唱え、清らかな心をもち、たとえ自分が嫌(いや)な思いをしても、耐(た)え忍(しの)んでどこまでも周りの人たちの幸せを御本尊さまに祈り、この教えを色々な人たちに話すことができるようになりましょう。住職さんは、皆さんがこのような心を持てるように毎日お祈りします。