金貨をにぎって生まれた子供 (令和元年8月)
むかし、インドのコーサラ国の都、シュラバスティーに1人の裕福な長者が住んでいました。
都の東には舎衛城(しゃえいじょう)があり、その南には祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)があり、お釈迦さまがそこで人々に法を説いていました。
さて、その長者は大きな屋敷に住み、使用人もたくさんいて、倉庫がいくつもあって、修行僧に御供養したり、生活に困っている人たちに食べ物を分けても、その財産が減ることはありませんでした。
しかし、その長者には子供がいませんでした。
妻とともにいつもそのことを嘆いていました。
「どんなに財産があっても、それを継いでくれる子供がいない私たちは決して幸せではない。
死んだら財産も国に没収されるだろう。そして誰が私たちを追善供養(ついぜんくよう)してくれるというのだろうか。今までの努力はむなしいものに終わってしまうのだろうか」
と言って、なんとか子供がほしいと願っていました。
ある日のこと、長者の友人が
「友よ、希望を捨ててはいけない。神の力を信じ神を供養すれば、きっとその恩恵によって息子か娘に恵まれますよ」と励ましました。
長者は、大梵天王(だいぼんてんのう)や帝釈天王(たいしゃくてんのう)、そして世界中の神々を供養しました。しかし、1ヶ月たっても1年たっても、子供に恵まれることはありませんでした。
そんな時、お釈迦さまを信仰する別の友人が長者を励ましました。
しかし、長者は
「どんな神々に祈ってもかなえてもらえなかった。お釈迦さまだからといって、願いが叶えられるとは思えないよ」と、友人の誘いを断りました。
しかし友はなんとか長者を救いたい一心で、断られてもあきらめませんでした。
そして、とうとう長者は友人の篤い心に打たれて、妻と一緒に祇園精舎にいるお釈迦さまのもとを訪れました。
お釈迦さまは、丁度人々にお説法をしているところでした。
長者夫婦は、人垣の後ろでお説法を聞いていましたが、今までにない感動に涙を流していました。
夫婦はお釈迦さまのもとにかけより、
「私たち夫婦は今日からお釈迦さまに帰依し、仏法を信仰します。どうかお導き下さい。また、子供をなんとか授けてください」とお願いしました。
お釈迦さまは、にこやかに微笑み、うなずきました。
その夜のことです。
妻は1人の天子が空から降りて、自分の胎内に入ってくる夢を見ました。
何年も何年も、あらゆる神々に祈っても叶わなかった願いが、お釈迦さまを信ずることで、ついに叶ったのだと確信しました。
妻のお腹はだんだんと大きくなり、妻はうれしそうに長者に
「あなた、喜んでください。ようやく子供を授かりました。いつも右側で動いているから、きっと男の子ですね」と言いました。
長者も嬉しくてたまりません。
今まで以上に妻を大事にし、使用人たちも、つきっきりで妻の世話をしました。
やがて待ちに待った元気な男の子が生まれました。
その子は、丸々として肌つやも良く、顔かたちはとても整っています。
そして、よく見ると両手に何か握っています。
妻はそっと指をひろげてみると、なんとそこには黄金の金貨が1枚ずつ握られているではありませんか。
長者は黄金を手にした子という意味で、その子の名前を『ヒランパヤーニ』と名づけました。
その子は賢い理解力と記憶力をもち、修行僧には欠かさず御供養させて頂き、貧しい人々がいたならば財産を惜しみなく分ける子供でした。
そして、不思議なことに両手の金貨を御供養したり、分けたりすると2倍の金貨がその手に自然と握られていました。
御供養すればするほど金貨が増え、財産は沢山増えていきました。
日頃から誰にでも、わけへだてなく財産を分けましたので、誰からも慕われヒランパヤーニを知らない人はいませんでした。
ヒランパヤーニは成長するにしたがって、不思議な手をもつ長者の子として、この世に誕生させて下さったお釈迦さまにお会いしたいと、1人で祇園精舎に出かけました。
ヒランパヤーニは両手からあふれでる金貨を山のようにお釈迦さまに御供養し、お釈迦さまのお説法をお聞きし、心の底から喜びがあふれ体がふるえ、これが仏さまの法を聞かせて頂く喜びなんだと思いました。
そして、ヒランパヤーニは出家して僧侶になることを志しました。
しかし、長者夫婦は腰を抜かさんばかりに驚きました。
長者は、
「お前は私が願って生まれた後継者だ。出家をすれば食べるものも信徒から御供養されたものだけで、日常生活は様々な修行をして、色々苦労することばかりだ。
お前は両手からあふれる金貨で、修行僧に御供養し貧しい人たちを助けることが使命だと思うよ」。
そして母親は、
「ヒランパヤーニ、どうして私たちを捨てて行くの。あなたは私たちの生きがいなのよあなたが出家したら私はもう生きていけないよ。どうしても出家したいのなら、私が亡くなってからにしてちょうだい」と泣きすがりました。
ヒランパヤーニは、
「お母さん、私が出家したいと思うのは、死後のことを思うからです。この世で救ってくれるのは仏さまの説かれる法です。私はお父さんお母さん、そして多くの人の生死を救ってあげたいのです。金貨を御供養するだけでは、本当に救ってあげることはできません」と言ったのでした。
こうして出家したヒランパヤーニは、子供ながらすぐさま悟りを開き、立派な僧侶になりました。
他の修行僧たちは、不思議がりお釈迦さまに尋ねました。
お釈迦さまは、「むかし、迦葉仏(かしょうぶつ)という仏さまが法を説いていた時代、クリキン王はそれを外護(げご)し、迦葉仏が亡くなったときには、御遺体を宝石の塔に納めました。
その時、1人の男が全財産を2枚の黄金の金貨に替え、その金貨を塔の下に埋め、未来世で良き師匠に出会いたいと願い、また人々を助けてあげたいと祈りました。
その男の生まれ変わりがヒランパヤーニです」と、過去世の善行の徳が今生現世に顕れ、今生現世の行いが未来世につながっていくことを説かれました。
皆さん、御本尊さまに御供養したことはありますか?
今日のお話を聞いて、御本尊さまに御供養させて頂くことの大切さ、そして本当に大事なことは毎日御本尊さまに勤行・唱題して、御本尊さまから見守って頂き、皆さんの周りにいるすべての人に思いやりの心をもって、もし悩んだり困ったりしている人がいたならば、南無妙法蓮華経の仏さまがすべて解決してくれるよ、と言えるようになりましょう。
そして何よりも、皆さんがこれから未来にわたって、幸せな毎日を送れるようにお父さんやお母さんとお寺に通い、頑張っていきましょう。