ウズラ捕りの名人(令和5年3月)

ウズラ捕りの名人(うずらとりのめいじん) 
                 

  令和5年3月 若葉会御講

     

 むかし、ある森の中に数万羽という数のウズラが住んでいました。赤ちゃんから年老いたウズラまで、それは毎日にぎやかでした。朝早くから夕方まで木の実をつつき、若葉をついばみ、小さな虫を追いかけ、ミミズを掘って食べていました。そんな毎日の生活の中で、卵を産んでは育てていくめん鳥たちによって、ウズラの集団はだんだん増えて行きました。
 ところが、ある日からこの村にきた一人の男によって、ウズラの集団の秩序(ちつじよ)は乱されていきました。その男は、この地方では一番のウズラ捕りの名人です。一匹一匹捕(つか)まえるのではなく、一度に多くのウズラを網で捕まえるのです。どんなふうにして捕まえるのかと言えば、その名人の口笛(くちぶえ)によって、「みんなこっちにおいて。おいしい食べ物がたくさんあるよ」と、ウズラの鳴きマネをするのです。するとあちらこちらの林や草むらから、ゾロゾロとウズラが集まってきます。そして、バサバサと飛んで来たところへ網をかぶせるのです。ウズラたちはビックリして羽を広げてバタバタしますが、もがけばもがくほど網にからまって、もう身動きがとれません。一度に数百羽捕まってしまいます。一度そういうことがあると、みんな用心して近づかないのが普通ですが、食いしん坊のウズラは「こっちにおいで、おいしいものがあるよ」との鳴きマネに、ついついだまされて集まってきてしまいます。そして、また網にかかって捕まってしまいます。
 この様子をウズラのリーダーは、「なんとかならないものか、なんとかしなければならない」と考えていました。ウズラ捕りの男の鳴きマネは、リーダーもだまされてしまうくらい上手なので、仲間の声と聞き分けが難しいほどで、ついついだまされてしまうのです。そこでリーダーは、網をかけられても皆で協力すれば、なんとかなるのではないかと考えました。そして、皆に集合させ、「皆も、あのウズラ捕りの男から逃れたいと思っているはずだ。でも、あの呼び声にはついだまされてしまう。そこで提案だが、あの大きな網が降ってきても決してあわててはいけない。羽を広げてもいけない。じっと静かにして、網の目に体がからまないように、くちばしで網をくわえて、全員がそろったらいっせいに飛び立り、近くのイバラの木まで網をかぶせるんだよ。そうすれば、網はイバラの木に引っかかり動かなくなるから、皆は枝の下から逃げればいい。ここでポイントは、皆が心を一つにして、一緒に行動を取ることだよ。それぞれグループを決めて、グループのリーダーの号令でいっせいに行動するのですよ。自分勝手にバラバラに行動したら、必ず捕まってしまうからね」と伝えました。
 こうして次の日の朝を迎えました。ウズラ捕りの男はいつものように、「おいでおいで、みんな楽しいことがあるよ」と、口笛を鳴らしました。ウズラたちは、ついついだまされて集まってきます。そして、ふわっと網が降ってきてウズラたちは網の中に入ってしまいますが、今日はいつもとちょっと様子がちがいます。網の中でウズラはいつものようには騒がないのです。その時、静かに網がスーッと空に浮かび上がり、近くのイバラの木の上まで来ると、スーッとその木に網がかぶさっていきました。そして、ウズラたちは網にかかることなく、一羽一羽イバラの枝の下から大空に向かって飛び去っていきました。
 ウズラ捕りの男は、「あれ?目の錯覚かな?網が空を飛んでいった。これはいったいどうしたことだろう」と、ビックリしてしまいました。網に近づいてみると、ウズラは一匹もいません。網はイバラの木にからまって、そう簡単には取れません。男は思ってもみなかった展開に一度はビックリしましたが、そこはウズラ捕りの名人です。困難なことがあればあるほど、失敗をすればするほど、それを乗り越えようとやりがいを感じます。男は次の日も、また次の日も、網を持ってウズラ捕りに出かけました。口笛でウズラを呼びよせ、ウズラは集まってきます。網はフワーッと浮かび上がって、イバラの木に引っかかります。何度もそれを繰り返しながらも、男は「ウズラはもともと自己主張が強い鳥で、勝手気ままな鳥だから、いつか必ずあの調和と団結は乱れるだろう」と確信していました。
 数日後のことです。網にかかったウズラの群れが、グループのリーダーの一声で網を空に浮かばせる予定が、網の中でケンカが始まったのです。ケンカの原因は、ぶつかったとか、足をふんだとか、頭の上に乗っかったとかでケンカが始まり、ウズラたちは網にからんで、ウズラたちは全匹捕まってしまいました。こうして、ウズラ捕りの男の思う通りになってしまいました。
 せっかくウズラのリーダーが皆を助けようとして計画した名案も、ウズラたちのワガママや勝手な行動で団結が乱れて、ウズラ捕りの男の思う通りになってしまいました。このように皆さんも、家庭や学校で何か集まって一つの物事を成し遂げようとした時、何があっても耐え忍び、心を一つにして行動を共にし、継続して努力していかないと、ウズラたちのようになってしまいます。日蓮大聖人さまは、「一人の心なれども二つの心あれば、其の心たがいて成ずる事なし。百人千人なれども一つ心なれば必ず事を成ず」と仰せになられています。何か物事を成し遂げる時、十人なら十人、百人なら百人、心を一つにして目的を達成しようとすることを『異体同心』と言います。また、ウズラの団結が乱れてしまったことを『同体異心』と言います。
 また、今日のウズラの話を毎日の生活にあてはめてみますと、世の中には皆さんをだましたり、驚かせたりして不幸にしようとする用きが沢山あります。それが、人をだまして財産を奪おうとするオレオレ詐欺だったり、人を襲う変質者だったり、あおり運転をするような自分勝手な人だったりと、あげればキリがありませんが、皆さんがそうした不幸な目に遭わないようにするためにも、毎日御本尊様に手を合わせ、勤行やお題目を唱えて行けば必ず御本尊様が護って下さり、嫌な思いやヒドイ目に遭うところを助けて頂いたり、逆に皆さんの目標を達成したり悩みを解決させて頂いたりと、助けて頂けるようになります。ですから、毎日皆さんや家族が幸せでいられるように、事故や災難に遭わないようにするためにも、毎日しっかりと勤行や唱題を沢山していきましょう。
 今、世界中で新型コロナウイルスが広まり、日本でも色々な事件が起きたり、あやしい宗教にだまされて財産をすべて奪われたり、地震や大雨など、自然災害が沢山起きています。そして、そうしたことが起こることによって悩む苦しんでいる人たちが、世の中には沢山いることを忘れないで下さい。皆さん自身も、これから未来に向かって自分が思い描いた夢があるならば、その目標に向かって努力して行くことも大事ですし、その努力を2倍3倍にもして頂けるのが御本尊様のお力です。また、皆さんの近くに悩んだり悲しんでいる人がいたならば、見て見ぬふりをしないで声をかけてあげて、できれば「お寺に行って南無妙法蓮華経のお題目を一緒に唱えててみようよ」と誘えるようになってほしいと思います。
 皆さんには、これから大事な未来があります。その未来を良くするか悪くするかは、今の皆さん次第です。フランスの英雄ナポレオンは、「お前がいつか出会う災いは、お前がおろそかにした時間の報いだ」という言葉をのこしています。どうか皆さんには、毎日の貴重な時間をおろそかにすることなく、御本尊様への毎日の勤行や唱題、今自分にできる最大限の努力と、やるべきことを行い、あとで後悔することがないように、御本尊様に見守られ幸福な日々を送ることができるように頑張って下さい。