精進弁(しょうじんべん) (平成31年4月)
お釈迦さまはあるとき、弟子の阿難(あなん)に次のような話をしました。
『むかし、一切度王如来(いっさいどおうにょらい)という仏さまがおられ、人びとに法を説いていました。
一切度王如来のお説法を聞いている人びとの中に、精進弁(しょうじんべん)、徳楽正(とくらくしょう)という2人の修行僧がいました。
精進弁は悟りを得るため、お説法を真剣に聞いて修行に励み、やがて何がおきても少しも動じない力と、神通力(じんづうりき)という不思議な力を得ることができました。
いっぽう、徳楽正は、お説法中に居眠りばかりしていて、なに1つ得ることができませんでした。
そこで精進弁は、親友の徳楽正に、
「友よ、仏さまのお説法を聞けるということはめったにあるものではない。それを君は最初から最後まで眠ってばかりで、少しも真剣に聞いていない。
眼を開けて仏さまを見て、全神経を耳に集中して、一心に仏さまのお説法を聞いてこそ、悟りを得ることができるんだ。それなのに君はなんだい。ぼくは同じ修行僧として恥ずかしいよ。なんとかぼくと一緒に頑張ろうよ」
と励ましました。
徳楽正は親友である精進弁の熱意に心を打たれて、自分を恥じて頑張ろうと決意し、近くの泉のほとりで足を組んで座り瞑想に入りました。
しかし、しばらくするとまた眠くなってきました。
なんとかがまんして目をこすり、背すじを伸ばして座禅を続けました。それでもとうとう徳楽正は眠ってしまいました。
その様子を見ていた精進弁は、なんとか親友を眼りから覚まさせ、修行を続けさせようと思い、神通力を使って1匹のみつばちに変身しました。
そして、徳楽正の顔のまわりを、ブンブンと羽音を立てて飛びまわりました。
徳楽正は、1度は眼を開けましたが、また眠ってしまいました。
そこで、みつばちは徳楽正の衣の中に入り、わき腹をいやというほど刺しました。これには徳楽正も驚き、睡魔も消えてなくなりました。
徳楽正が目の前の泉を見てみると、1匹のみつばちが蓮華の花のみつをすっていました。
やがてそのみつばちは、おなかがいっぱいになり、うとうと眠くなって、ついうっかり泉の中へ落ちてしまいました。
びっくりしたみつばちは、あわててバタバタと羽ばたいて、やっとの思いで水から出て花の上に体を休めることができました。
その様子を見ていた徳楽正は、
「みつをすうために花の上に止まったのは良いが、眠って水のなかに落ちたら世話がないよ。また、いつまでも花の中にいれば、花がしぼんで枯れてしまうよ」とつぶやきました。
それを聞いたみつばちは、
「悟りを得るために出家して僧侶となったのに、睡魔に負けて眠ってばかりでは、いつまでたっても悟りを得られないで迷うばかりで、成仏することはできないよ。何のために出家したのか、何のために修行しているのか。眼を覚ませ、徳楽正よ」と言い返しました。
徳楽正は、みつばちの声が親友の精進弁であることに気づき、そこまでして自分のことを思ってくれる友情に心が熱くなりました。
それからは、徳楽正は心を入れかえ真剣に修行するようになり、眠りの誘惑に負けずお説法もよく聞き、ついに悟りを得ることができました。』
お釈迦さまは、精進弁と徳楽正の話を終えられ、
「その時の精進弁とは過去世のわたしであり、徳楽正は弥勒菩薩(みろくぼさつ)のことです。仏さまの説法を聞く者、仏道修行する者は、眠りという魔に負けないようにしなければいけません」と言われたのでした。
皆さんは、勤行のとき、勉強をしている時、学校の授業中眠くなる時はありませんか?
また、朝眠いから、学校へ行くギリギリまで起きず、お母さんを困らせていませんか?
当然、疲れて眠い日もあり、朝勤行や夕勤行を行う時が辛い日もあるでしょう。
しかし、「水滴石をうがつ」という言葉があります。
これは、石に水滴がポタポタ垂れ、それが何年も続くと石に穴を開けるということです。
また、「継続は力なり」という言葉も聞いたことがあると思います。
日々、朝夕の勤行や、1日5分でも10分でも、毎日唱題し続けて行くと、御本尊さまからの尊い智慧と、なにものにも変えがたい「心の財(たから)」を積むことができます。
また、信心修行を通じて、何事にも集中して努力することができるようになります。
他のお友達とは違って、勤行したり唱題しながら毎日を送ることは簡単なことではないと思います。
それでは、何のためにこうして信心修行するのでしょう。
それは、幸せな人生を送るためです。
日蓮大聖人さまの御本尊さまや教えを信じ、お寺に通い、お題目を唱えていくと、何事にも負けない強い心、人を思いやり心から心配できる性格を養うことができます。
こうしたことは、学校で教えてくれませんし、自分でなろうと思っても、なかなかなれるものではありません。
どうか、皆さんが幸せな人生を送ることができるようお祈りしています。