猿の肝(平成25年6月)
ある海の中にとても仲の良い亀の夫婦が住んでいました。
ところがある日、その妻がとても重い病気になりました。
どんなに看病してもなかなか直りません。
どうしていいか困っている時、一匹の亀のおじいさんが
「その病気を治すには生きた猿の肝臓が必要なんだよ。
だけど、それはとても難しいことで、第一猿は海の中にいないんだ。
ずーっと遠くの島の森の中にいるし、とてもすばしっこくて、それを手に入れることは無理なんだよ。」と言いました。
それでも亀の夫は大喜びして
「おじいさん、ありがとう。今から猿のいるところまで行って、必ずその肝を持って帰ってきます。」と言って、猿の住むはるか遠くの島に向かって泳ぎ始めました。
何日かして、亀はやっと猿のいる島にたどり着き、それから森の方へと向かって歩きました。
その様子をものめずらしそうに木の上から見ていた一匹の猿がいました。
そして猿は亀のところへ行き
「亀さん、こんなところまで来てどうしたの?何か用があるの?」と尋ねました。
亀は心の中で、
「なんて運がいいんだ!このチャンスを逃すものか」と思い、猿に
「やー猿さん、こんにちは。実はね、海の中に竜宮城というお城があって、今日はそこでパーティーがあるんだよ。そこで特別に猿さんを招待しようと迎えに来たんだ。いやなら別にいいんだけどね。どうする?」と言いました。
猿は少し不安だったけど、とても綺麗な素晴らしい所で、おいしい果物が沢山食べられると聞いて行ってみたくなり、ついに亀の背中に乗って海に出ました。
だいぶたって、島が見えなくなった所まで来て亀が突然笑い出しました。
猿は、「亀さん、何がおかしいんだい?」と聞きました。
すると亀は
「いや、君がすっかり騙されたから、ついおかしくなってね。実はさっきの話は嘘なんだ。
本当は僕の妻が重い病気でね、それを直すには猿さんの生き肝が必要なんだよ。それで、嘘をついて悪かったけど、君を連れて行くところなんだよ。」と言いました。
猿は一瞬「しまった」と思いましたが、
「え?それ本当なの、先にそれを言ってくれれば肝を持ってきたのに、残念だね。今日は天気が良くて、肝は木にかけて干しているから今は無いんだよ。」と言いました。
亀は「せっかく猿を捕まえたのに、肝の無い猿を連れて行ってもしょうがない」と思いました。
そして猿は「亀さん、心配しなくてもいいよ。君の奥さんの為に、僕の肝をあげるから早く島にもどろうよ」と亀に言い、亀は急いで島に戻り始めました。
やがて、島にたどり着き猿は「それじゃすぐに戻るから」と言って、森の中に走って行きました。
それから何時間たっても猿は戻ってきません。
亀がおかしいなと思い始めた頃、丁度猿が現れました。
そして
「なんだ亀さん、まだいたのかい。君はバカだなぁ。普通肝というのは体の中にあって外にはだせないんだよ。
君は僕を騙したから、僕も君を騙したんだよ。これからは嘘は言ってはいけないよ。」と言って
森の中にそそくさ帰っていきました。
猿は、海の中にあるわけのない果物を求めて亀の背中に乗り、亀は体の外に肝があるものだと信じて、結局何も得ることはできませんでした。
日蓮大聖人様もこのお話から、
「私たちも亀や猿と同じように、嘘、偽りの間違ったものを信じても決して幸せにはなれないし、とにかく御本尊様を信じて毎日朝晩の勤行と唱題をすることが世の中で一番の幸せです。」と言っています。
なぜなら、自分ではわかりませんが、人は誰でも自分の心の奥底に、不幸になる原因の汚れた悪いものがつまっていて、それを綺麗に掃除するには御本尊様にお題目を唱えること以外にないからです。
ですからみんなも、毎日しっかりと朝晩の勤行をして、1日5分でも10分でもお題目を唱えて、一生懸命勉強することが大切です。