御報恩御講住職指導(令和7年7月)
このところ連日の猛暑に加え日本乃至世界各地で大地震をはじめとする自然災害が相次いで起きています。こうした自然災害や事件事故は、いつどこで起きるかわからないものであり、また私たちがそうした災禍に巻き込まれるか否か、さらに私たち自身の今後の果報も凡眼凡智には決して計り知り得ないものであります。
だからこそ大聖人様が、「臨終只今にありと解(さと)りて、信心を致して南無妙法蓮華経と唱ふる人を「是人命終為千仏授手(ぜにんみょうじゅういせんぶつじゅしゅ)、令不恐怖不堕悪趣(りょうふくふふだあくしゅ)」と説かれて候」と仰せの如く、油断怠りや慢心を犯すことなく、常に初心を忘れず謙虚正直をもとに、誠実に精進の誠を尽くして行くことが肝要であります。そして、末法尽未来際にわたり常住不変なる大聖人様の教えのもと、世の中の状況はその時代時代によって良くも悪くも日々刻々と変化を遂げておりますが、何時(いつ)の時も大聖人様出世の本懐たる本門戒壇の大御本尊と血脈付法の御法主上人御指南のもと、大聖人様御遺命の広宣流布への道を令和の法華講衆たる私たちが、熱原三烈士や金沢法華講衆のように、この時代に名を残すことができるよう努めて行くべきであります。
さて、東京大学名誉教授で社会学者の上野千鶴子氏は、平成31年度東京大学学部入学式において、「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日(こんにち)「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひとたちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶(おとし)めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」と祝辞を述べられました。
正に今日の世情や不公正不公平なる社会の現実を明確にされ、生まれ持ったそれぞれの境涯に応じていかに生きるべきか、お世話になった方や自身の周囲の方々への感謝の念を忘れずに報じていくこと、そして立場の上下や年齢に関係無く、尊ぶべき人を敬い、決して偉(えら)ぶることなく互いに認め合い励まし合い、特に社会的弱者を支えていくことの大事を言われているのではないでしょうか。
当然こうした世情に身を置く私たち日蓮正宗の僧俗は、大聖人様が「天晴れぬれば地明らかなり、法華を識(し)る者は世法を得べきか」との御教示にもあるように、世法濁乱の原因が邪宗謗法の害毒や三毒煩悩渦巻く人々の体(てい)たらくにあることをよくよく銘記し、まずは自分自身が今生現世において唯一無二の正法正義に巡り値うことができた有り難き因縁を噛み締め、また自分自身の力は微力であっても、ひとたび御本尊様の御仏智を賜れば計り知れない尊い力を生ずることができることに感謝し、その御恩に報い奉る志を立てることが肝要であります。
そして、日々悪化する世情の浄化矯正のため、またありとあらゆる境涯に悩み苦しむ多くの人々を真に救済して行くためには、日々変化する世の中の状況を敏感に察知し、自身の我意我見や過去のしがらみに執することなく、今、この時に適った信心修行の姿や下種・折伏の在り方、さらによりよい対人関係の在り方を学び取り、あらゆる方々に勇気と希望を教え与えることのできる尊い存在になれるよう、いよいよの御精進をお願い申し上げます。

