日を昇らなくした修行僧(令和7年6月)
日(ひ)を昇(のぼ)らなくした修(しゆ)行(ぎよう)僧(そう)
令和7年6月 若葉会御講
むかし、ある国に2人の修行僧が住んでいました。2人はずいぶん長い間修行して、「菩薩」と呼ばれるほどになっていました。1人を那頼、もう1人を題耆羅と言います。2人は空気の澄んだ高い山のてっぺんに洞穴を掘って、そこで修行していました。
2人は太陽や月を動かしたり、どこへでも飛んで行けるような神通力を身に付けていました。それほどの修行僧でしたが、気が強く、意地っぱりなところもありました。
ある日2人はふらふらになるまで修行して、お経を読みながら帰ってきました。2人は食事もそこそこに、また読経を始めましたが、そのうち題耆羅は精根尽き果てて、寝てしまいました。那頼は、その後も修行を続けていましたが、ふと冷たい空気を吸いたくなり外に出ようとしました。
ところが、疲れて意識がもうろうとしていて、題耆羅の頭を思いっきり踏んでしまいました。「痛い!誰だ、何するんだ!」と題耆羅は叫びました。那頼は、「あっ」と思い、眠気も吹っ飛んでしまいましたが後の祭りです。誰だと言われても、この洞穴には題耆羅の他には自分しかいません。でも、真っ暗な上に、ぐっすり眠っていた題耆羅には、誰かが入って来たように思えたのかもしれません。題耆羅は、「今日は眠くてだめだ。あした、日が昇ったら決着をつけるからな」と、不機嫌そうな声で言うと、またカミナリのようなイビキをかいて眠りにつきました。
那頼は、「困ったことになった、明日になれば一悶着だ」と思い、そうしたら修行どころではない、言い出したら聞かない意地っぱりな題耆羅の性格を考えると、那頼は暗い気持ちになりました。さらに、「この、気の強い、意地っぱりは、修行に打って付けで、そのために修行もどんどん進んだが」と、那頼は題耆羅の性格を思いつつ、「題耆羅のことだから、日が昇れば、たちまち大騒ぎをするにちがいない」と思いました。その時ふと、「そうだ、日が昇らなくすればいいんだ」と那頼は気づき、太陽を昇らなくする呪文を唱え始めました。
すると、太陽が昇らない真っ暗な日が何日か続き、町の人々はもう大騒ぎです。王さまは家来たちを集めて会議を始めました。王さまは、「太陽が出ないとどうなる?」と天候を調べる学者に聞くと、学者は「はい、王さま、太陽の出ない日が続くと、すごく寒くなって、野菜も米もできなくなります。山の草も枯れてしまいますから、鳥も獣もいなくなり、人間の食べる物も無くなりますので、人間も全滅してしまいます」と言いました。王さまは大変驚き、「なぜ、こんなことになってしまったのだ?」と占い師に尋ねました。占い師がさっそく占ってみると、山に住む2人の修行僧のケンカが原因であることが分かりました。占い師はわけを話し、「王さまじきじきに洞穴まで行って、2人の争いを止めてください」と頼みました。王さまはしぶい顔をして、「ワシが命がけで戦争をして、国をこんなに大きくしたんだ。百姓も商人もみんな頑張って、こんなに立派な国にしたのに、苦労知らずのお坊さんがケンカなぞしおって」と溜息をつきました。占い師はビックリして、「王さま、ダメですよ。日が昇るようにできるほどのお坊さまなのですよ。そんなことを聞かれたらどうするんですか?」と言うと、王さまはビックリして、口を押さえました。
王さまは主立った家来をつれて僧侶が住んでいる山に向かいました。年をとっている上に太った王さまにとって、急な山道を登るのは大変でしたが、国民が全滅するのを防ぐためには、なんとしてでも山を登らなければなりません。王さまたちは休み休み、なにくそと頑張って進みました。
その頃、那頼と題耆羅は、山のてっぺんで、一列になった松明の一行がこちらに向かって登ってくるのを見ていました。その時2人はもう、この事件は王さまたちに仏教を教えるための、天の神さまたちが仕組んだちょっとしたイタズラだった、ということに気づいて解決していました。
やっと洞穴にたどりついた王さまは、汗まみれになりながら2人の僧侶に、「どうか、人々の命を救うために、争いごとをやめて、太陽を昇らせてほしい。これ、この通りだ」と、王さまは地面に頭をこすりつけて頼みました。2人の僧侶は、「王さま、それには条件があります。私たちが修行している教えを仏教といいます。仏教は国を救い、人を幸せにする尊い教えです。王さまをはじめ、家来全員が仏教を敬い、次の五つのことを守ってください」と王さまに言いました。そして、「一つ、人を殺さないこと。二つ、物を盗まないこと。三つ、ウソをつかないこと。四つ、男女の不純なつきあいをしないこと。五つ、酒を飲まないことで、この五つのことを守る誓いを立てれば、日はまた昇ってきます」と王さまに言いました。王さまは、「誓いますとも。これからは仏教を敬い、必ずその五つの戒めを守ります。王の位をかけて、固くお誓いいたしましょう」と言いました。王さまの言葉が終わるのが早いか、地平線のかなたから太陽が昇り、真っ赤な朝日が山を照らして、無量の光が天地にあふれました。
この長い話を終えたお釈迦さまは、周りの人たちに言いました。「この話は、仏教の教えがいかに素晴らしいかを、王さまたちに教えるために起こしたことで、その時の那頼は私でした。題耆羅は弥勒菩薩だったのです。どんな世の中になっても、仏法が広まらなければ国は本当の平安にはならないし、人も真の幸せにはなれないのです」と言ったのでした。
皆さん、今日の話はどうでしたか?今、世の中は平和で、みんなが幸せな生活を送っていると思いますか?いつの時も、正しい仏さまの教えが世の中に広まり、人々がその教えを信じて信心修行していかなければ、世界平和も築けませんし、世の中に新型コロナウイルスのような疫病が流行ったり、ロシアがウクライナを攻めているような争いごとが増え、地震や大雨といった自然災害がたくさん起きてきます。
ですから、皆さんは自分自身がしっかり朝夕の勤行や唱題を行い、1人でも多くの友だちや親戚の人たち、近所の人たちが、大聖人さまの教えを信じるように、御本尊さまに願い、伝えて弘めていけるように頑張ってください。