功徳を積んだクシェーマー(令和6年11月)
功徳を積んだクシェーマー(くどくをつんだクシェーマー)
令和6年11月 若葉会御講
お釈迦(しやか)さまが、インドの竹林精舎(ちくりんしようじや)で人々に教えを説いていた時、マカダ国に一人のバラモン(僧侶)がいました。バラモンはインドの身分制度では、4段階(1.僧侶、2.王(おう)侯武士(こうぶし)、3.農工商庶民(のうこうしようしよみん)、4.隷民(れいみん))の中で一番上でしたが、彼はいつも貧乏で生活に困っていました。しかし、彼には賢い妻がいて、名前をクシェーマーと言います。クシェーマーは、どうしたらこの貧乏な生活から抜け出せるかいつも考えていました。
そんなある日のこと、友人からお釈迦さまの話を聞きました。それは、お釈迦さまやお弟子さまたちを招いて布施行(ふせぎよう)(御供養(ごくよう))をすれば、その功徳(くどく)によって貧(まず)しさから逃(のが)れられるということでした。クシェーマーは、自分たちの食事にも困る生活でしたが、夫と協力してお金を貯(た)め、色々な品物や食べ物を用意して、お釈迦さまに布施行を行う申し出をしました。
そして、お釈迦さまの弟子の舎利弗らに、我が家まで来ていただき、用意したご馳走を食べて頂きました。その時、舎利弗は「在家の方々は、八斉戒(はつさいかい)を守れば徳を備え幸せになります」と言って、クシェーマーたちに八斉戒(殺生(せつしよう)をしない、嘘をつかない、どろぼうをしないなど、八つの規則)を説いて聞かせました。クシェーマーは、合掌(がつしよう)しながら聞き、この教えを守っていこうと心に誓いました。
そんなことがあって、しばらくしたある日のことです。マカダ国の頻婆舎羅王(びんばしやらおう)が、外出先から城へ帰る途中、男が柱に縛(しば)られているのを見つけました。何か悪いことをして村人に縛られていたようです。男は王さまたち一行(いつこう)を見つけると、「王さま、私はもう何日も何も食べていません。お願いです、何か食べ物をお恵み下さい」と、男は涙を流して手を合わせてお願いしました。王さまは男がかわいそうになり、城に着いたら誰かに食べ物を持たせることを男と約束しました。
ところが、城へ帰った王さまは、男との約束をすっかり忘れてしまい、夜寝るときになってやっと思い出しました。もう深夜ですが約束は約束なので、王さまは家来を呼んで、男のところへ食べ物を持っていくように命じました。ところが、王さまの命令なのに誰も行きたがりません。家来は王さまに、「王さま、あの男のところへ行くには、羅刹(らせつ)(人を食べる悪鬼(あつき)で、後に仏道修行者の守護神となる)や、野獣(やじゆう)が住む森を通らなければなりません。昼間ならまだしも、とても夜に行ける所ではありません」と申し上げました。すると王さまは、「そうか。でも私は王として、どんな理由があっても一度約束したことは守らなければならない。名乗り出るものを探してまいれ!無事、使いをはたした者には千金(せんきん)のほうびを与えると皆に伝えよ」と家来たちに言いました。
こうして直ちに城外にもこのお触(ふ)れが出されましたが、誰も申し出る者はありませんでした。この時、バラモンの妻のクシェーマーは、舎利弗の話を思い出しました。それは、「八斉戒を守る者はどんな悪鬼からも守られる」ということでした。クシェーマーは、「私は八斉戒を守っているから、恐ろしい羅刹からも必ず守られるはずだわ!」と思い、彼女はなんとしてでも貧乏からのがれたかったし、そして何よりも舎利弗のお説法を聞いてから、もっと仏さまに御供養申し上げたいという気持ちになっていました。クシェーマーは王さまに、「王さま、私が行ってきます」と申し出ました。王さまは、「そうか、では私の代理として行ってきなさい。気をつけて必ず帰ってきなさい。その時には、ほうびとして千金を与えよう」と言いました。
クシェーマーは、罪人の男に与える一抱(ひとかか)えもある食べ物を持って城を出発しました。羅刹のすむ森まで来ると、五百人の子供を持つ羅刹が目の前に現れました。羅刹はちょうど子供を産んだあとだったので、体力も落ちお腹もペコペコでした。そこで、遠くから来るクシェーマーを見つけて、ご馳走がやってきたと思って待っていました。しかしクシェーマーからは、後光(ごこう)が差していて、どうしても手出しができません。クシェーマーは、羅刹が自分に手を出せないのを見て不思議に思いました。羅刹は自分よりも3倍も大きく、目は光り爪(つめ)は鋭(するど)く長く髪(かみ)は逆立っていて、見た目だけでも気絶しそうです。その羅刹が、「お前には不思議な徳が備わっているから手出しはできない。しかし、少々食べ物を恵んでくれないか?」と頼んできました。クシェーマーは、罪人の男に渡す食べ物を羅刹に少しだけ分け与え、羅刹はそれを食べると急に優しくなりました。羅刹は通力(つうりき)で少しの食べ物でも満腹になれたのでした。すると羅刹は、目つきもおだやかになり、「こんな夜更(よふ)けに女の身でどこへ行くのか?」と尋ねてきました。クシェーマーは、「私は王さまの使いで、森のはずれにつながれている罪人に食べ物を持って行くところです。私はお釈迦さまのお弟子さまから、八斉戒を授かり、それを守っているので、その徳によって障魔(しようま)から守られているのです」と言いました。羅刹は、「そうですか。では、私があなたをお守りしましょう。また、この黄金の鎌(かま)を食事のお礼に差し上げましょう」と言いました。
こうしてクシェーマーは、羅刹に守られながら無事罪人の男に食べ物を届け、王さまの使いを果たすことができて、黄金の鎌とほうびの千金を手にすることができました。クシェーマーは、それによってお釈迦さまやお弟子さま方に、思う存分御供養することができました。
王さまは、女の身でありながら一人で使いを果たした上、羅刹から黄金の鎌までもらってきたクシェーマーに感服(かんぷく)し、夫とともに城に呼び寄せ家来として重く用いることにしました。クシェーマーは、仏さまの教えを信じて八斉戒を守ることによって、羅刹から守られ黄金の鎌を手に入れ、王さまからも重宝されるようになったのです。
私たちもこのように、正しい教えをしっかり信じて、毎日勤行や唱題を行い、御本尊さまに御供養する功徳は、決して目には見えなくても、いつの間にかおどろくほど大きなものになっていきます。そして、御本尊さまから見守られ、諸天善神という多くの神さまたちから守られるようになります。皆さんには、このことを忘れずに毎日御本尊さまに手を合わせ、勉強や部活動、習い事がより上達するように、何事も一生懸命頑張って行きましょう。