スジャータ(令和6年3月)

スジャータ(七人の妻)

 コーヒーを飲む時に入れるミルクを作っている「スジャータ」という会社があります。その会社の名前は、むかしインドで修行に修行をかさねて心身共に疲れ果てていたお釈迦さまに、乳がゆを御供養した女性の名前である「スジャータ」からきているそうです。
 このスジャータは、お釈迦さまに祇園精舎(ぎおんしようじや)を御供養した須達長者(すだつちようじや)の長男の奥さんで、須達長者の一族は皆、お釈迦さまが説かれた仏法を信じていました。しかし、このスジャータだけは素直に信じることができませんでした。お釈迦さまが長者の家に訪ねて来ても、スジャータはあいさつもしないでわざと嫌な態度で接したり、大きな音を立てて嫌がらせをしていました。そんなスジャータに対して、お釈迦さまは嫌な顔一つせず、なんとか素直な心を取りもどして、幸せになってもらいたいと願っていました。
 ある日のこと、お釈迦さまはおだやかな口調でスジャータに、「今日は妻として七つのタイプがあることをお話します。あなたがどのタイプにあたるかをよく考えて、反省すべきところは反省して、あなたが良い奥さんとして幸せになってもらいたいと願います」と言いました。
 そして、「七人の妻」について、次のように説いて聞かせました。『一人目は「悪魔(あくま)のような妻」です。鬼子母神(きしもじん)が人の子供を食べたように、人を人とも思わず、平気で夫を軽(けい)蔑(べつ)して他人の迷惑などを考えることなく、自分のしたいように行動し、自分の都合が悪くなると、夫でさえも早く死んでくれたら良いと思える人です。旦那さんに多額の保険金をかけて殺したり、幼い子供がうるさいからといって暴力をふるったり、短気ですぐに怒ったりする人です。二人目は「泥棒(どろぼう)のような妻」です。夫が一生懸命働いて得たお給料を、自分の欲望の心を満たすために、平気でたくさん使ってしまう人です。夫の物は自分の物、自分の物は自分の物と考え、自分は高価な物をどんどん買って、他人には思いやりがなくケチな人です。人の気持ちよりも物やお金を大事にして執着(しゆうちやく)し、人のことを自分のために平気で利用する人のことです。三人目は「支配者(しはいしや)のような妻」です。夫よりも自分が一家の中心であり、自分の思い通りにならなければ気がすまず、自分が何でも旦那さんや子供に命令し、指示するワガママ勝手で気ままな人です。四人目は「母親のような妻」です。母親が子供を思いやり守り育てるように、夫をいたわり健康などに気をつかい、豊かな家庭を作ろうと努力する人です。五人目は「妹(いもうと)のような妻」です。妹が姉や兄たちの言うことに従うように、夫に対しても尊敬の心をもって、素直にしたがうことのできる人です。六人目は「親友(しんゆう)のような妻」です。まるで親友のようにいつも仲良く、夫に何でも相談し、話し合って心が通じ合い、何でも夫婦で協力し合える人です。七人目は「召使(めしつか)いのような妻」です。まるで召使いのようによく働き、旦那さんを信頼して、何でも言うことを聞き、どんなことでも耐え忍んで、どこまでも夫についていくことができる人です』。
 ここまで話してお釈迦さまはスジャータに、『さて、一人目から三人目までのタイプの妻は亡くなったあと、きっと地獄に堕ちるでしょう。それは貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)という、欲望や怒りの心、自分勝手な心という三つの心によって、自分さえよければ良いという行動の報いによる結果として、地獄に堕ちてしまうことになります。また、四人目から七人目のタイプの妻は、きっと亡くなったあとも善処に生まれ変わり、未来世もきっと正法(しようぼう)に縁することができて、幸福な人生を送ることができるでしょう。それは、人のことを尊敬し、信頼し、信じることができる心で行動した結果によります』と言いました。
 ここまで、じっとお釈迦さまの話を聞いていたスジャータは、涙を流しながら『私はせっかく仏法を信仰する家族に恵まれながら、仏法を信じることができないばかりか、夫に対してもワガママばかり言って、皆に迷惑ばかりかけていたことがよくわかりました。私は今まで、一人目から三人目の妻の行動を取っていました。きっと地獄に堕ちることになるでしょう。お釈迦さま、今日から心を入れかえて夫を大事にし、協力して支え、真心からお釈迦さまの説かれる教えを信仰させていただきたいと思います。私は救われるでしょうか?』と、お釈迦さまにたずねました。するとお釈迦さまは笑顔で、『よく決心しました。素直に正しい仏法を信仰していけば、過去の過ちは消滅されていきます。悪い妻であったほど、それを直そうと努力する心が起こってきて、きっと良い妻になれます。素直で正直な心を持って精進して下さい』とスジャータに言いました。この話を聞いたスジャータは、心から喜び、それからは本当に生まれ変わったように、人の幸せを願い、夫のために、人のために我が身を尽くせる心やさしい妻となりました。
 今日は、七つのタイプの妻の話でしたが、皆さんのお母さんはどのようなタイプで、どのような性格でしょうか?きっと、毎日勤行や唱題をしっかりと行い、お父さんや皆さんに対して、間違っている時には厳しく注意することもあると思いますが、ふだんは優しく皆さんのことを大切にしてくれると思います。
 また、皆さんは血液型とか星座を気にして、それによってどんな性格だとかを決めつけていないでしょうか?本来、人の性格やクセなどは生まれつきのものがありますが、良くも悪くも成長していくごとに少しずつ変化していきます。例えば、短気な性格、怒りっぽい性格、自分勝手な心を急に変えることはできません。しかし、一生懸命信心修行を行い、御本尊さまにしっかりお題目を唱えて行くと、自分の間違った姿に気づいたり、自然と自分勝手な考え方や短気な心が、相手を思いやり優しくおだやかな性格に変わって行きます。
 次のような話もあります。Aくんがある日、目覚まし時計がこわれていて、寝坊してしまいました。Aくんは起こしてくれなかったお母さんに、「どうして起こしてくれなかったの?学校に遅刻してしまうよ」と怒りました。逆にお母さんは、「寝坊したあなたが悪いんじゃない」と叱りました。Aくんは自転車を思い切り飛ばして学校へ行く途中、自動車にぶつかって大ケガをしてしまいました。お母さんは、あの時叱らなければよかった、ちゃんと時間通りに起こしてあげれば良かったと反省しました。Aくんも、自分が怒ってしまったから、大ケガしてしまったんだと、お互いに反省しました。
 自分が正しいと思う人は、自分が失敗しても悪いことは人のせいにしてしまいます。自分がいたらない者だと思う人は、何か良くないことがあっても悪いのは自分だと思って、人のせいにしたり相手を恨(うら)む気持ちにはなりません。皆さんも、自分は正しい信心をしているからといって、何をしてもいい、何を言ってもいいと思っている人はいないと思いますが、正しい信心を行っているからこそ、正直で素直な心を持って、他人のことを思いやり、育ててくれるお父さんやお母さんに感謝し、敬う心を持って接して行きましょう。そして、毎日の勤行や唱題を欠かさず一生懸命行い、あらゆる人から慕われ、愛され、頼られるように頑張って下さい。