金色のライオン(令和4年12月)

金 色 の ラ イ オ ン(きんいろのらいおん) 
                                                                                               令和4年12月 若葉会御講       

 むかし、お釈迦(しやか)さまがインドの霊鷲山(りようじゆせん)でお説法されていた時のことです。ある日のこと、お釈迦さまは病気になってしまいました。そこで名医のジーバカはさっそく薬を作り、お釈迦さまに差し上げました。お釈迦さまはこの薬を服用して、体の調子もだんだん良くなっていきました。このことを聞いたお釈迦さまの従兄弟(いとこ)の提婆達多(だいばだつた)は、自分もその薬を飲みたいと思いました。提婆達多はお釈迦さまの弟子でありながら、師匠(ししよう)であるお釈迦さまに対し、素直に教えを聞くことができないばかりか、いつもお釈迦さまに逆らって反抗(はんこう)ばかりしていました。お釈迦さまが「十八究竟(じゆうはちくきよう)」といえば、提婆達多は「いや十九究竟(じゆうきゆうくきよう)」だといって、お釈迦さまより自分の方が修行しているんだ、自分の方が優(すぐ)れているんだと言いふらしていました。
 また、後に悪象(あくぞう)に酒を飲ませてお釈迦さまを踏み殺そうとさせたり、大きな岩を崖(がけ)から落としてお釈迦さまを殺害しようとした、とても悪い人です。提婆達多はいつもお釈迦さまに対して、ヤキモチや妬(ねた)みの心を持っていました。だから、この時もお釈迦さまが飲んでいた薬を自分も飲みたいと思い、名医のシーバカは提婆達多に、「あなたはどこも悪くないのだから、この薬を服用(ふくよう)すればかえって体がおかしくなりますよ。やめておいた方がいいですよ」と注意しましたが、提婆達多は、「いや、オレは釈尊(お釈迦さま)に劣(おと)るところは何一つないんだ。釈尊にできてオレにできないことはないんだ。よけいなことは言わずにさっさと薬をよこせ」と言って、お釈迦さまより余計に多く薬を飲みました。
 するとどうでしょう。提婆達多は毒を飲んだように、体中がいたくなりました。高熱もでて、頭もわれるようにいたくなり、うめき声を出してころげまわりました。その姿を見ていたお釈迦さまは、提婆達多の体をさすってあげました。すると不思議なことに、体中のいたみは嘘(うそ)のように消えてしまったのです。本来ならば、提婆達多はお釈迦さまにあやまって、お礼を言うべきところです。しかし、提婆達多は変なプライドが強いから素直な態度(たいど)がとれないのです。ましてや今度は「釈尊は変な医術を使ったに違いない。オレも研究してみよう」と、どこまでも意地っ張りな様子です。それをそばで見ていた、提婆達多と同じくお釈迦さまの従兄弟(いとこ)で、弟子でもある阿難(あなん)は、「お師匠(ししよう)さま、提婆達多はどうして『ありがとうございます』、との感謝の言葉が言えないのでしょう?なぜああまで頑固(がんこ)なのでしょうか?」とお釈迦さまに尋(たず)ねました。お釈迦さまは、「提婆達多の悪い心は今世に始まったことではなく、前世から続いているんだよ」と言って、次のような話をしました。
 『むかし、バーラーナシーの都(みやこ)で国を治めていたわがままな国王がいました。自分が欲しいと思ったら、人を殺してでも手に入れる凶暴(きようぼう)な国王でした。ある夜のこと、国王は一頭のライオンの夢を見ました。それは全身が金色(きんいろ)の毛におおわれ、あたり一面に黄金(おうごん)の光をまぶしく放つ、まさしく夢のような黄金のライオンでした。国王は目が覚めても、夢にでてきたライオンのことが忘れられませんでした。さっそく、猟師(りようし)たちを呼び集め、「わしは昨晩(さくばん)、まぶしいばかりに輝(かがや)く黄金のライオンの夢を見た。夢に現れたということは、この国のどこかにいるはずだ。探(さが)してその毛皮を持ってくることができたならば、お前たちにほうびを与え、子孫(しそん)七代(しちだい)にわたって生活の保障をしよう。だが、探(さが)し出せなかったときには、お前たちの家族もすべて皆殺しにするから、覚悟してどこへでも行って探してこい」と命令しました。こんな命令はあまりにもムチャクチャです。どこへでもと命令されても、どこに行けばいいのか?何も悪いことをしていないのに、どうして家族まで皆殺しにされなければならないのか?第一、黄金のライオンなど、今まで誰も見たことも聞いたこともないのです。猟師たちは集まって話し合いました。目的地も定まらないで探しに行っても、きっと毒虫や猛獣にやられてしまうだろう。そこで猟師のリーダーが、「皆でバラバラに行動しても、かえって犠牲者が出てしまう。まず私が一人で探しに行ってくるから、皆は私が帰ってくるまで待っていて下さい」と言いました。リーダーは弓矢と食料を背に、一人で黄金のライオンを探しにでかけました。山や川や谷を歩き回り、1週間がすぎました。リーダーはとうとう力尽きて、倒れてしまいました。広い砂漠のなかで、ギラギラと太陽に照りつけられて、意識を失ってしまいました。するとそこへ、一頭のライオンが近づいてきました。ライオンは泉へ行って全身を濡らし、リーダーの口に水を含ませました。そしてライオンは、リーダーを泉へ運んで食べ物を与えました。リーダーは息を吹き返し、なんとか助かりました。リーダーはその命の恩人を見て声がでませんでした。それはなんと、金色に輝く黄金のライオンです。リーダーは下を向いて声をころして泣くばかりです。ライオンは「どうしましたか?」と尋ねました。ライオンに話しかけられたリーダーは、ビックリしながらも「黄金のライオンを探し求めていたこと、その毛皮を持って帰らなければ猟師たちは家族共々、国王に殺されること、しかし自分にとって命の恩人であるライオンの毛皮など持ち帰ることはできないことなどを話しました」。ライオンは、「私は前世で数え切れないほどの死を体験しましたが、このたびのように多くの人を救うために死ねるなんて、願ってもないことです」と言って、自ら皮をはいでリーダーに渡しました。ライオンは自らのほどこしによって、できるだけ多くの生きものを救いたいと誓いました。皮をはいで横たわり弱ってしまったライオンには、どこからともなく八万匹のハエやアリや毒虫が群がり、みるみるうちにライオンを食い尽くし、ついに骨だけになってしましました。しかし、その虫たちは、やがてライオンの願いどおり、天界に生まれ変わることができました。その後、リーダーは国王に泣きながら黄金のライオンの毛皮を献上(けんじよう)しました』と、お釈迦さまは話を終えると、さらに次ぎにように言いました。
 『阿難よ、その黄金のライオンは私の前世の姿であり、悪王は今の提婆達多なのです。八万匹の虫たちは、私が仏になって教え導き、死後、天界に生まれ変わった人々の数なのです。このように、提婆達多は今も昔も私に敵意(てきい)を持っているのです。しかし、私はどんな悪人でも救ってあげたいものです』と言い、阿難は静かに涙を流して聞いていました。
 皆さんは、自分のことを嫌ったり、意地悪をしたり、敵意を持った人を許せますか?ましてや、そうした人を救いたいと思いますか?今日の話の黄金のライオンは、「自分の毛皮を国王に献上することによって、多くの人たちが救われるなら、自分の毛皮を喜んで差し出しましょう」と、多くの人たちを救うために自らを犠牲にすることなど、とうていできることではありませんね。
 今私たちは、人として生を受けることことができ、なかなか巡り値うことのできない正しい仏法の教えを信仰させて頂いています。私たちは何か困ったことがあったり、適(かな)えたいことがあったり、目標を達成したいことがあったならば、御本尊さまに真剣にお題目を唱えることができ、それによってあらゆることを解決、達成させることができると思います。しかし、世の中の人たちは今、コロナ禍をはじめ、色んなことに悩んだり、苦しんだり、間違った宗教を信じることによって、更に悩み苦しみ、財産すべてを失ったりしています。ですから、1年365日、1日24時間、誰かのために、誰かを幸せにするために、悩んだり困ったりしている人を助けるために、その時間を少しでも使えるようになりましょう。それが、お題目を唱えたり、正しい信心の話をしたり、ちょっとした人助けでも良いでしょう。何か人に役立つことを進んでできるようになってほしいと思います。
 今年もあと少しで終わります。大晦日までに来年の目標を立てて、令和5年のお正月を迎えましょう。そして、目標をかなえるために、来年もがんばって下さい。