東日本大震災より10年

 平成23年3月11日午後2時46分、その日は、埼玉県川口市で午後6時より御信徒のお通夜の導師を務めるため準備を整え、いつも斎場には万が一のことを考え1時間前には着くようにしているため、3時半過ぎには出発しようと、生後半年になる長女を囲み家族3人で団らんしている時でした。突如として建物の揺れが始まり、だんだん揺れが大きくなるに連れこれはまずいかも知れないと感じ、家内が長女を抱え3人ですぐさま本堂へと向かい、家内は本堂の隅でお題目を唱えながら長女を必死に抱え込み、私はお題目を唱えながら前後に揺れる本堂御安置の御本尊様を必死で支えていました。

 初めて味わう震度5強の地震が収まった後、すぐさま本堂や庫裡の状況を見て回り倒壊や破損したものがないことを確認し、これはただ事ではないと思いつつ、本来なら1時間半程で着くであろう川口へとすぐに出発しました。途中、万が一に備えガソリンを満タンに入れ斎場へと向かうなか、首都高速は通行止めになったことを知り、ひたすら一般道をカーナビ通りにを走りながら、マンホールから水があふれ出て噴水のようになっている状況、崩れかけた家々の屋根から落ちた瓦や窓ガラスが割れ落ちたビルなど、生まれてこのかた目にしたことのない、凄惨な光景を目(ま)の当たりにしました。そうしたなか、小学校から下校して1人家に取り残された姪っ子からは何度も携帯電話に連絡が入り、姪っ子の両親である姉夫婦に電話が繋がらず、パニックになり脅えている状態で、「マンションは新しくできた建物で丈夫だから、とにかく家に居れば安心だから。また地震が起きたら居間のテーブルの下に入りなさい」と、落ち着くよう何度も諭(さと)しながら斎場へと急ぎました。

 結局、大渋滞のなかなんとか午後5時半過ぎに斎場にたどり着き、定刻の午後6時よりお通夜の導師を務めることができました。お通夜終了後、午後7時半前に斎場を出発しましたが、鉄道網が相次いで遮断され数百万人に及んだ帰宅困難者が、徒歩で自宅を目指しているのを横目に、道路が大渋滞となったなか妙眞寺に到着したのは日付の変わる頃でした。そして、テレビをつけ大地震関連のニュースを見た時、目を疑うような東北地方の被災状況に、言葉も出ずただただ茫然とするだけでした。

 あの日から10年、死傷者は22000名余り、現在も行方不明の方は2527名となっており、その大半が10メートルを超える津波によるものであり、東北地方をはじめ非常に多くの地域が被災し、更に、その後起きる福島原子力発電所の水蒸気爆発による放射能汚染問題など、多くの方々が命を失い、家族を失い、住まいを失い、財産を失い、仕事を失い、当たり前だった日々の生活を、突如発生した大地震と津波にのみ込まれて失うという、近年未曽有の大震災のつめ痕は、10年たった現在でも被災された人々の心を傷つけ続けております。また、この震災をきっかけに発明されたのがLINEという、スマートフォンのアプリであります。

 平成時代に入ってから、全国各地で大地震が頻発しておりますが、高速道路が横たわるように倒壊した平成7年の阪神淡路大震災、上越新幹線が脱線した平成16年の新潟県中越大震災などは、特に皆様の記憶に残っていることと存じます。こうした大地震や年々大型化する台風、ゲリラ豪雨を初めとする自然災害は近年頻発し人々を苦しめ続けており、今日まで起きた大災害により、いまだ多くの方が避難生活を余儀なくされております。そして、つい先日、3月2日の夜半には東急東横線の自由が丘駅近くでは、ビル建設現場の足場が暴風により倒壊し東横線の架線を断線して停電を引き起こし、幸いにもラッシュ時を終え本数の少なくなった時間帯であったため、走行中の電車を直撃することはありませんでしたが、翌日の昼過ぎまで東横線は不通となり、10数万人に影響を及ぼした事故がありました。この事件を知り得た時、平成12年3月8日、中目黒駅近くで起きた地下鉄日比谷線脱線事故を思い出したところであります。その事故は複合的要因が重なったことが原因とされておりますが、結局はずさんな管理による人災として70名近くに及ぶ死傷者を出してしまったことが、メディアや研究者による大凡の見解とされております。

 ここ30年、全国各地で起きた様々な事件事故、自然災害による直接的被害を受けなかった方々は、徐々にその事象が風化し他人事のようになりがちですが、先月13日に東日本大震災の余震とされる最大震度6強を観測した地震が、東北地方をはじめとする日本列島の広範囲を襲い、また東横線の架線断線事故が起きることにより、こうした事象はもはや私たちのすぐ間近で起きていることであり、決して対岸の火事ではなく、いつ我が身をそうした災難が襲うか、当たり前のような日常生活を一瞬にして失ってしまう、ということを想定する必要性を再度認識し、物質的にも精神的にも緊急事態に備えていかなければなりません。

 ましてや現在、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令中である一都三県に住する私たち妙眞寺僧俗は、今一度宗祖日蓮大聖人様お認めの『立正安国論』を拝し奉り、更に大聖人様が『安国論御勘由来(あんこくろんごかんゆらい)』に、「正嘉元年太歳丁巳八月二十三日戌亥(いぬい)の時、前代に超えたる大地振。同二年戊午八月一日大風。同三年己未大飢饉。正元元年己未大疫病。同二年庚申四季に亘りて大疫已(や)まず。万民既に大半に超えて死を招き了(おわ)んぬ。而る間国主之に驚き、内外典に仰せ付けて種々の御祈祷(きとう)有り。爾(しか)りと雖(いえど)も一分の験(しるし)も無く、還(かえ)りて飢疫等を増長す。日蓮世間の体(てい)を見て粗(ほぼ)一切経を勘ふるに、御祈請(きしょう)験無く還りて凶悪を増長するの由(よし)、道理文証之を得了んぬ。終(つい)に止(や)むこと無く勘文(かんもん)一通を造り作(な)し其の名を立正安国論と号す。文応元年庚申七月十六日辰時、屋戸野(やどの)入道に付し故最明寺入道殿に奏進し了んぬ。此(これ)偏(ひとえ)に国土の恩を報ぜんが為なり(中略)日蓮正嘉の大地震、同じく大風、同じく飢饉、正元元年の大疫等を見て記して云はく、他国より此の国を破るべき先相なりと。自讃に似たりと雖も、若し此の国土を毀壊(きえ)せば復(また)仏法の破滅疑ひ無き者なり。而るに当世の高僧等は謗法の者と同意の者なり。復(また)自宗の玄底を知らざる者なり。定めて勅宣(ちょくせん)・御教書(みきょうしょ)を給ひて此の凶悪を祈請(きしょう)するか。仏神弥(いよいよ)瞋恚(しんに)を作(な)し、国土を破壊(はえ)せん事疑ひ無き者なり。日蓮復之を対治するの方之を知る。叡山を除きて日本国には但一人なり。譬へば日月の二つ無きが如く、聖人肩を並べざるが故なり。若し此の事妄言ならば、日蓮が持つ所の法華経守護の十羅刹の治罰之を蒙らん。但偏に国の為法の為人の為にして身の為に之を申さず。復禅門に対面を遂ぐ故に之を告ぐ。之を用ひざれば定めて後悔有るべし」との御教示を拝し、正に太陽や月が一つしか存在しないが如く、お釈迦様が出世の本懐たる法華経にて予証された、末法に出現し正法を説き弘める聖人は大聖人様ただお一人であること、そして大聖人様が説かれた南無妙法蓮華経の正法正義を、国のため、人のため、そして仏祖三宝尊様に対する御恩徳に報い奉るためにも、宗祖日蓮大聖人御聖誕八百年という大慶事を迎えた今こそ、縁するすべての人に弘め伝えるべき時であることを覚知し、日蓮正宗全僧俗が総力を結集して折伏弘教を徹底して行い、まずは現前にある新型コロナウイルス感染拡大を早期に終息させなければなりません。特にこの新型コロナウイルスの感染拡大から早1年が経過し、いまだに終息に至らないことは、私たち日蓮正宗僧俗の身命を賭して折伏弘教に打って出て、疫病災禍の根本原因である障魔を排除していくという意識統一、足並みが揃ってないこともその原因の一つであると拝します。

 要するに今日、全世界に猛威を奮うコロナ禍の先行きは、最早、令和の法華講衆たる私たちの名実共なる広布大願への前進に託されていると言っても過言ではありません。ましてや人々の喜びを奪い不幸に堕としめ、深い悲しみや苦しみをもたらす邪宗謗法乃至様々な諸悪がこの世に蔓延(はびこ)る限り、今後もありとあらゆる災禍が全世界を脅(おびや)かすことは必定(ひつじょう)であります。それだけ、私たち日蓮正宗僧俗の世界広布への使命の大なることを知り、その誇りと勇気を持ち大御本尊様への更なる確信と覚悟を決めて信行の実践に励み、末法五濁悪世に三毒強盛なる悪風吹き荒ぶ世の中に、妙法の良き清気清風を送り込み浄化矯正していくところに、今後の全世界の行く末を左右する重大な局面を迎えていることを真剣に考えて頂きたいと存じます。

 妙眞寺法華講衆の皆さま、この文章を御覧になられている方々には、この世を平和安寧なさしめることが出来うるのは、宗祖日蓮大聖人様説くところの御本尊様のもと、正しい仏さまへの確信と正しい教えを信じ行じ、それに基づく清らかな道義に則り、正しく毎日の人生を送る以外にその方途はありません。どうか、その意とするところをお汲み頂き、日蓮正宗御信徒の皆様には、より一層折伏弘教に励み、御自身の間近に悩み苦しんでいる方がいたならば、決して見て見ぬふりをすることなく、率先して正法に導くことができるよう努めて頂きたく願います。また、日蓮正宗に興味があったり、日蓮大聖人様の教えを知りたい方、現在コロナ禍で悩み困っている方々、他にもありとあらゆることで解決したいことがあったならば、是非ともお近くの日蓮正宗の寺院に御参詣下さい。御自宅近隣の寺院は、日蓮正宗公式ホームページで探すことができます。

 最後に、信じるか信じないか、行ずるか行じないかは、皆さま御自身の御判断でお決め頂くことですが、お釈迦様がインドの国に御在世になられた時代から三千星霜、お釈迦様の御予証を現ずべく、日出ずる国、日本国に末法の御本仏・宗祖日蓮大聖人様が御出現せられ、法華経の奧義たる南無妙法蓮華経の教えを説かれて以来、七百五十年の歴史と伝統を有し令和の今日まで正しく継承する日蓮正宗、そして日蓮正宗の各僧侶・信徒は、唯一無二の正法正義の信仰によって、世の中すべての人々の安寧なる日々と、いかなる諸難にも挫けず屈せず悲しみや苦しみを取り除き、笑顔と喜び溢れる心豊かな毎日をお送り頂けるよう日々願っております。