指導教師指導③

 皆様こんばんは。朝晩の冷え込みも日々一段と増して進りましたが、本年『僧俗前進の年』も残すところあと一ヶ月程となりました。皆様方におかれましては折伏目標完遂の為、日々切磋琢磨ご精進されていることと存じます。
 さて今晩は、私が昨年春まで在勤しておりました、アメリカ・シカゴの妙行寺においての経験を紹介させて頂き、皆様方の信行倍増の一助となればと思い、『シカゴ・妙行寺に在勤して』と題しまして少々お時間を頂戴したいと思います。
 妙行寺はアメリカ第三の都市、イリノイ州シカゴ、実際はウエストシカゴ市にあります。シカゴの中心街から六十キロほど西に離れ、車で高速を使い一時間半程、アメリカ一のターミナル空港であるオヘア空港からは車で四十分程の場所にあり、種々野生動物が戯れる、一万七千坪の敷地と、道路を挟んで広大な自然保護林が広がる、大変緑豊かなシカゴ郊外にあります。
 ウィンディシティーと呼ばれるシカゴは、その名の通り風の強い町で、一年を通じて湿気が少なく、夏も気温は上がりますがカラッとしており、暑さもそうきつくは感じません。そして夏が終わり十月半ばを過ぎると秋を通り越すかのように、一気に気温が下がり、十一月あたりからは雪が降り始め、一月二月ともなると気温がマイナス二十度を超え、それが三月半ば頃まで続き、やがて春を迎えます。
 妙行寺の管轄範囲は、北はカナダ国境に面した、雪国ミネソタ州から、南は先般ハリケーンの被害に見舞われたニューオリンズのある、メキシコ湾に面したルイジアナ州までの中西部十七州であり、面積にして日本の七倍の大きさです。
 所嘱信徒は五百世帯七百名を超え、その半数以上がシカゴ以外の広大な地域に点在しています。寧ろお寺近辺に住んでいるメンバーは数えるほどで、シカゴ市内を中心とした地域に百数十世帯ほどが住んでいます。それでも、寺院近辺に住んでいる方は勿論のこと、シカゴ市内から車や鉄道を利用し一時間以上かけて、日曜日を中心に、ウイークデイも昼夜を問わずメンバーが参詣されます。
 中でも毎月の御講等には、車で十五時間以上かけて参詣される方もおり、御会式や支部総会といった寺院で行われる重要行事には、飛行機やバスを利用し、本堂を埋め尽くすほどの非常に大勢のメンバーが各地より参詣されます。
 講中活動としては、寺院と各地方の活動拠点の二本柱で取り組み、シカゴの各地区では毎月宅御講・座談会等を中心に折伏弘教に励み、各地方の活動拠点には数ヶ月に一度御住職が出張され、宅御講・座談会・御授戒・御本尊下附等を行う為、それらの地域のメンバーは御住職が出張されて来る迄に、新来者をなんとか入信させることができるよう、全力を尽くして折伏弘教に邁進されています。
 そして何よりも海外信徒が渇仰恋慕の思いを強く抱く総本山への登山は、シカゴから東京まで飛行機で十三時間、ふつう各メンバーが家を出て総本山へ到着するのは丸一日以上かかり、それに伴う費用も多大な金額がかかる上、登山するには数日間かけなければならない等、様々な工面をし、毎年では無くても数年に一度、乃至海外信徒総登山といった記念登山に参加できるよう日々努力されています。
 先の平成十四年宗旨建立七百五十年慶祝海外信徒総登山には、妙行寺史上今迄になき多くのメンバーの参加によって、登山参詣することができました。
 中でもあるご婦人の体験談の中に、「二〇〇二年の登山に家族六人全員で参加する為、登山の二年前より登山費用の工面と、未だ未入信だった御主人の折伏に努力していくさ中、四人いるお子さんがそれぞれ大ケガをしたり、病気を患ったり、また家電製品や家具が故障・破損したりと、貯金するどころか次々と予期しなかった出費にみまわれ、挙げ句の果てには御主人の勤める会社の財政状況の悪化と、何度も挫折しそうになりながらも、ただひたすらに唱題に唱題を重ねた結果、二〇〇二年の初頭、ついに御主人が御授戒を受けるに至り、更に御主人の会社が不況にもかかわらず、経営状況がすこぶる良くなり、登山費用も無事準備することができ、それどころか新しい仏壇をも購入することができたということです。
 そしていよいよ家族揃って日本へと旅立ち、無事奉安堂で御開扉を受けた時には、万感の思いを胸に、止めどなく涙があふれ、この上ない最高の登山をさせて頂くことができ、またどんな困難に直面しようともこの信心によって全て乗り越えることができるとの確信を改めて感じた」と語られています。
 このような体験を始め、海外のメンバーは、祖国の広布大願を祈り、仏道修行に努力精進を重ねつつ、それぞれ様々な思いを抱え総本山に登山参詣し、本門戒壇の大御本尊様に御報恩申し上げ、己の信を深めていっております。
 私自身も日本を離れ異国の地にて御奉公させて頂き、年に一度御信徒の引率で登山させて頂き、御開扉を受けさせて頂いた際には、さすがに目頭が熱くなるものがあり、その時の思いをいつまでも忘れることなく、僧道を全うさせて頂きたいと思います。
 さて、アメリカは、広大な国土の中に様々な人種や宗教が混在している国家というイメージがあるかもしれませんが、それはあくまでもニューヨーク等の大都会でのことであり、地域によって話すスピードや気質の違い、人種の分布等、種々の面においての相違があります。
 特に、アメリカ南部や人口の少ない地方・農村部では、保守的傾向の強い非常に強固なキリスト教社会があり、それが故に、そういった地域では未だ人種差別、他宗教への偏見が存在し、その中での布教活動は困難を極めるところであります。中でも妙行寺の管轄する中西部十七州には、「バイブルベルト」と呼ばれる地域があり、そこにはプロテスタント系キリスト教保守派、キリスト教原理主義者、俗に言う「アーミッシュ」と呼ばれる人々のコミュニティが形成されています。
 これらの地域社会では、全ての常識が『聖書』を中心として成り立っており、州の公立学校の中には聖書の教えを頭から覆す進化論をそのカリキュラムから削除し、頑なに天地創造説を教えるところもあるほど、キリスト教の影響が根強く浸透しています。しかしながら、そういった地域であっても法華講のメンバーは正法護持の信心を貫き通し、必死に折伏弘教に邁進されております。
 そこで曽て大白法に掲載されました、アメリカ南部アーカンソー州地域のコーディネーター、日本でいうところの地区長にあたりますが、そこで活躍されているマイケル・モアーさんの記事を紹介させて頂きます。
キリスト教では「神を信じない者は悪魔である」と説かれているため、個人レベルでは「仏教徒は悪魔を崇拝する汚らわしい異教徒」として毛嫌いされるのです。キリスト教徒が人口の大部分を占めるこの地域では、日蓮正宗の信仰を持つ上で陰に陽に様々な障害があります。実際、こちらが仏教徒であると判ると、あからさまに顔をしかめられたりすることは日常茶飯事です   (大白法六一一―五)
とあり、又
信心しているために職を失ったり、子供が学校で「悪魔の信仰をしている悪魔の子」と言われて、いじめられることはよくあることです。(中略)自分が日蓮正宗の信徒であることを表明した時点から、この信心に対する社会の偏見との闘いが始まります。しかしそうした偏見に怯むことなく、あらゆる機会をとらえて折伏に精進しています      (同)
と、厳しい現場の状況とその中での孤軍奮闘を語られております。
 また妙行寺の講頭を勤められているレイトン・フォンテインさん御夫妻は、ミネソタ州のイーグルベンドという、人口がわずか五百人ほどの町に住んでいらっしゃいますが、今から二十数年前家族と共に移住し、その町での日蓮正宗の信徒は、当時そのご家族だけで、子供達が学校へ行くと、悪魔の宗教を信ずる悪魔の子だといって、いじめられたり、時には学校の先生でさえも差別的な発言をするような状況であったそうです。
 しかし、そのような偏見や無理解を家族全員での信仰を根本に、良識ある社会人としての実証を示すことにより解決し、今では地域社会に認められる存在となっております。
 更にそのお子さんお孫さんも、御夫妻の意志を引き継ぎ、ミネソタ州の州都ミネアポリス等で、法華講の地域責任者や青年部・少年部等の中核を担い、妙行寺を代表する信徒として、寺院参詣、登山は勿論のこと、折伏弘教に励みつつ、家から飛行機で参詣する程の距離に住んでいながらも、毎月妙行寺に参詣し、寺院の保守・点検や整備を進んでかってでるというような、寺院の護持興隆発展に身命を尽くす強盛な信仰をされています。
 「百聞は一見に如かず」と言いますが、実際海外布教の最前線において、このような話を間近で見聞きし、御信徒と共に活動させて頂いた中で、改めて海外信徒の求道の一念を強く感じると共に、世界各地で、話す言葉こそ違えども、皆が一様に勤行・唱題し、折伏弘教に励んでいる姿を以て、言葉には言い表せない感動と、この正法への揺るぎない確信が深まった次第であります。
 今日宗門主導の海外布教は、世界約五十カ国、信徒数約六十六万人と目まぐるしい発展をみせており、世界各国あらゆる国と地域で言葉や文化の壁を越え、その国々や文化・慣習の事情で、信仰するにあたって様々な障害が生じたり、総本山へ登山するにも経済的負担が大きく、そう簡単には登山できない方々も多くいらっしゃいますが、ただひたすらに現世安穏・後生善処を祈り、それぞれの祖国広布の為、大いなる使命を以てご精進の誠を尽くされています。
 大聖人様は『新尼御前御返事』に、
末法の始めに謗法の法師一閻浮提に充満して、諸天いかりをなし、彗星は一天にわたらせ、大地は大波のごとくをどらむ。大旱魃・大火・大水・大風・大疫病・大飢饉・大兵乱等の無量の大災難並びをこり、一閻浮提の人々各々甲冑をきて弓杖を手ににぎらむ時、諸仏・諸菩薩・諸大善神等の御力の及ばせ給はざらん時、諸人皆死して無間地獄に堕つること雨のごとくしげからん
と仰せであり、世界広布への宗門海外布教の目まぐるしい発展とは裏腹に、特に二十世紀においては、来たる二十一世紀は、世界的環境問題と精神文明の退廃からなる恐るべき良心の不在、奇怪悪質な犯罪等の解決の時になると、しきりに叫ばれていましたが、実際そのような諸問題は悪化の一途をたどる上、ニューヨークのワールドトレードセンターに飛行機で突っ込み、多大な犠牲者を出した、悲惨きわまりない未曽有の同時多発テロで幕を開けた二十一世紀、日本を始めとする世界各国の天変地夭や伝染病、無差別テロ等の報道を見るにつけ、この大聖人様の御指南がそのまま今日の世相に、厳然として顕れていることを感じずにはいられません。
 その原因としては、紛れもなく現代の一凶たる創価学会を始めとする邪宗謗法の跋扈によるものであり、それらの対治無くしては決して安穏なる毎日と、真の世界平和は訪れないのであります。
 また大聖人様は、
一切衆生、南無妙法蓮華経と唱ふるより外の遊楽なきなり
と仰せであり、毎日の弛まざる唱題行無くしては、慶びに満ちあふれる正しい人生の道標は決して顕われてはこないのであります。
 いつ何が起こるかわからない毎日にあり、私たちは三世に亘る生命の中のひとときにあって、宿縁深厚にして末法濁世の闇夜を生きる一切衆生にとっての、勇気と希望のともしびたる、この唯一無二の正法に縁することができたのですからこそ、今こそ真剣に、「万事を閣いて信に生きる」ことが肝要ではないでしょうか。そこにこそ末法の御本仏宗祖日蓮大聖人様に対する御報恩の義が具わるのであり、また価値ある人生とこの世に生を受けた意義が存するのであります。
 そして、
一生空しく過ごして万歳悔ゆること勿れ
との御金言を肝に銘じ、ただ冥の照覧と諸天の御加護を信じて、本年残すところの一ヶ月を悔いなきものにし、明年『決起の年』の新年を、快く迎えることができますよう、皆様方の益々のご精進とご健勝をお祈り申し上げ、本日の話とさせて頂きます。