仏教説話 四種の良馬

 インドのお釈迦様が説かれた『雜(ぞう)阿含経(あごんぎよう)』という経典には、四種類の良馬についてのお話があります。
 一番目の良(りよう)馬(め)とは、鞭(むち)を振り上げれば、その鞭の影を見ただけで御者(ぎよしや)の意を察して、乗り心地良く目的地に向かって走り出す馬です。
 二番目の良馬とは、鞭が毛や尾に触れただけで、乗り心地良く目的地に向かって走り出す馬です。
 三番目の良馬とは、鞭が皮や肉に当たって、乗り心地良く目的地に向かって走り出す馬です。
 そして四番目の良馬とは、鞭で強く打ちつけ、その痛みが肌を通して骨にまで至り、初めて乗り心地良く目的地に向かって走り出す馬です。
 この四種の良馬とは、一体何を譬えているのかというと、一番目の馬は、世の中の病(やまい)、老い・死の苦しみを聞いて、信仰心をおこし、信心修行に励む人のことを言います。
 二番目の馬は、世の中の病・老い・死の苦しみを聞いただけでは何ともないが、それを目(ま)の当たりにして、信仰心をおこし、信心修行に励む人のことを言います。
 三番目の馬は、世の中の病・老い・死の苦しみを見聞きしただけでは何ともないが、自分の身近にいる人や身内がそうした苦しみや、不幸に見舞われた時、恐怖心を懐き、信仰心をおこし、信心修行に励む人のことを言います。
 そして四番目の馬は、自分自身が病気や老いや臨終に直面することによって、初めて恐怖心を懐き、信仰心をおこし信心修行に励む人のことを言います。
 私たち凡人は、若い時、健康な時に信仰心をおこすことは難しいのです。しかし、いざ病気や老い、死が迫ると、その苦しみから解放される為に、自然と何かにすがろうとする思いが生まれ、仏様や神の存在を感じ、信仰心が芽生えてくるものです。
 要するに私達は、この世に生を受けた時から生・老・病・死の四つの苦しみと共に人生を送ります。そしてその苦しみを超克し、人として尊い人生を全うするには、何よりも正しい仏法に縁し、信仰することが必要不可欠なのです。
 日蓮大聖人様は病身の信徒には、「このやまひは仏の御はからひか。…病によりて道心(どうしん)はおこり候」(御書九〇〇頁)と説かれ、また大切な我が子を亡くされた方には、「をくれさせ給ひける御君達(きんだち)の御仏にならせ給ひて父母を導かん…此の子なき故に母も道心者となり」(御書一四八一頁)と教えられています。
 生・老・病・死を単なる苦としか捉えられない人と、仏様の智慧によって、これを大切な鞭に替え、自他の幸福の為に精進する人とでは、その差は大きいのです。
 その正しい仏法が日蓮大聖人様が説かれた「南無妙法蓮華経」の教えなのです。
 その仏法の道理を聞かれたい方は是非、お近くの日蓮正宗の寺院をお訪ね下さい。