慢心に気付いた王様(平成29年5月)

昔、インドの国を治めていた一人の王様がいました。

その王様には一人の王子がいましたが、ある時、王様はその息子が自分に対して謀叛を企て自分を殺すのではないかと誤解し、国外に追放してしまいました。

王子は自分を信じてもらえずに国を追い出されてしまい、隣の国の小さな村でひっそりと暮らすようになりました。

そんな時、ある一人の女性が独りぼっちの王子のことを思い、色々と面倒をみてくれるようになりました。

その後二人は結婚し、お互い貧しいながらも協力しあって仲良く暮らしました。

 

その後十年が過ぎたある日、父である王様が亡くなったと、祖国より急報が入り、家臣達から王位を継承する為に国に戻ってきて欲しいと願われ、王子は祖国に戻ることになりました。

しかし、この時から王子の態度が変わっていきました。

それは、自分は王様になれるんだという奢りの心から、今まで苦労しながら共に助け合ってきた妻を軽んずるようになり、国に帰る途中の旅路では村人が二人に差し上げた御馳走や贈り物を王子は妻に何一つ分けようとせず、妻は急に自分に冷たくなった夫の心変わりに悲しくなりましたが、それでも黙って従っていくことにしました。

 

数日後二人は無事都に到着し、王子が国王となる儀式も無事執り行われ、新しい国王が誕生し、妻は第一王妃となりました。

しかし、国王は王妃には何一つ権限を与えず、逆に「あの田舎者の女には第一王妃はもったいないくらいだ。自分はこの国の王様なんだから、もっと賢い女や、美しい女を自分の側に置こう」と思うようになりました。

やがて王妃は病気を患い床につきましたが、国王は全く見舞おうともせず、王妃は毎日心細い想いで悲しみに泣き、「こんなことになるのなら、貧しくても夫が優しかった頃の、あの村での生活のほうが良かった」と思いました。

 

 

こういった様子を見ていた思慮深い一人の大臣が、なんとか国王の身勝手な心変わりを正そうと考え、ある日その大臣は病気の王妃をお見舞いに行き、そして

「お妃様、実はお願いがございます。私の母親の命がもう長くはないということで、母親の為にお妃様から何かお恵みを頂きたいのですが、いかがでしょうか」と言いました。

すると王妃は当惑しながら

「そうですか、かわいそうに。できることなら何か差し上げて喜んで頂きたいのですが、国王は私に何の権限も与えて下さらないので、私には自由になるものが何もないのですよ。

前はそうではなかったのですが、国王になると決まった途端に、突然私に冷たくするようになりました。

こちらへ来る旅の途中でも、国王は村人から頂いた食べ物もわけて下さらず、私はお腹をすかしたままこの城にやってきました」と大臣に言いました。

大臣は王妃がとても気の毒に思い、なんとか助けてあげたいという思いで王妃にたずねました。

「お妃様、今から国王のところへ行って、今のお言葉を国王様の前でも言っていただけますか」と言われた王妃は、「はい、いいですよ、あなたを信じましょう」と言いました。

それからすぐに大臣は国王のもとへ戻り、しばらくしてから王妃がやってきて国王に挨拶をしました。

その時、大臣は王妃に「お妃様、あなたはなんて非人情なお方なんでしょう。私の母親のためにたった一着の着物も恵んで下さらないなんて。本当に悲しいことでございます」と言い、

「大臣、何を言われますか。私自身、国王からなにも頂けず、なにも自由になるものがないから差し上げたくてもあげようがないでしょう」と王妃は言いました。

そして大臣は「でも、あなた様は国王のお妃様ではないですか。なにも自由になるものがないなんて信じられません」と言うと、

王妃は「確かに私は王妃ですがそれはただの名ばかりで、実際国王から愛情や思いやりの言葉すらいただけません。さらに国王は旅の途中で村人から頂いた食べ物も一人で召し上がられました」と言いました。

大臣は国王に「国王様、そのことは本当ですか?」と尋ねると、「本当のことだ」と国王は答えました。

すると大臣は

「お妃様、それはなんてお辛いことでしょう。名前ばかりの王妃など、そんな虚しいものはありませんし、愛情や思いやりのない人と暮らしていても無駄な時間を過ごすだけです」と言い、更に大臣はなんとか国王の心が変わってくれることを願い、次のような詩を唱えました。

「人を敬えば 自分も敬われる 愛情をも以て親しめば 自分も豊かな愛情につつまれる こころを開いて信ずれば 幸せの道は開かれる それが通じぬ相手には あえて求めても無駄なこと 執着の心を捨てきれず 無理に求めても苦しみばかり 実のない木だと知る鳥が 見捨てて他の木に移るように いくら尽くしても通じない人は 見捨てて去った方がいい」と。

 

国王はその詩を聞いてしばらくもの思いに耽るうちに、自分が父親に追放されて隣の国の小さな村で一人寂しく生活していた時に、今の王妃が色々と面倒を見て助けてくれた頃のことを思い出し、今の自分があるのもこの王妃のおかげであり、国王になることでいつしかそういったことを忘れてしまい、恩に報いないばかりか我がまま好き勝手にしていた自分の慢心に気付いたのでした。

そして、王妃に今までの不知恩を詫び、それを教えてくれた大臣に心から感謝しました。

以後、国王は王妃にも色々な権限を与えて、お互い信頼して助け合いながら国を治めていきました。

 

皆さんはこの話を読んで何を感じましたか。私たちは日頃御本尊様に守られ、両親に育ててもらって成長しています。

しかし、そういった恩や人を思いやる心を忘れて、自分の言いたいことを言い、やりたいこと、欲しい物ばかりを求めてはいませんか。

 

とにかく私たちは毎日しっかり朝晩の勤行・唱題をして御本尊様に感謝し、一生懸命勉強しなければなりません。

そして又、人を思いやり困っている人がいたら、いつでもどこでも助けてあげることのできる人になることを望みます。