七宝(しっぽう)の靴 (令和元年10月)

むかし、インドのある国の山のなかに、5人の仙人が修行していました。
そのなかの1人に、他の4人の食事などの役目を受け持っている仙人がいました。

 

ある日のことです。
山のなかで果物を取って帰る途中、彼はつかれはてて思わず草むらで寝むりこんでしまいました。

食事の時間がきて他の4人が修行から帰ってきても、食事の支度ができていません。

しばらく眠っていた食事番の仙人は、はっと起きてあわてて起きて帰りましたが、他の4人は帰ってきた仙人におこってどなりつけました。

彼は申しわけないと思いとても悲しくなり、反省のために1人で小川のなかに足をつけて立っていました。

長い時間そうしているうちに、かたほうの靴がぬげて流れてしまいました。
彼は岸に上がろうとはせず、とうとう小川でおぼれて亡くなってしまいました。

 

それから数年して、彼は1人の男の子として生まれ変わりました。
とても頭がよく、整った顔、かたちをしている少年でした。

ある日、近所の子供たちと遊んでいるとき、1人の修行僧が通りがかり、その少年に
「あなたはとても高貴な人相をしています。将来きっと王様になるでしょう」と言いました。

少年は不思議に思い、
「自分は身分の低い、いやしい者です。王様になるなんて、そんなことがあるはずがありません」と言うと、

修行僧は、
「現在の王様は、○年○月○日にお亡くなりになるでしょう。そこで、あなたは次の王様に必ずなるでしょう」と言いました。

少年は信じられませんが、「もし万一、そのようになったら、私はあなたを信じ、あなたを師匠として、あなたにしたがうでしょう」と言いました。

 

そして数年後、修行僧が予言した年月日に王様が亡くなりました。

王様には子供がおらず、あとつぎがいないということで大臣が王様のあとつぎになるような、そう明な賢者をさがし、その人を王様にするということになりました。

そうしたなか、大臣の使者の1人が、その少年を探し出しました。

少年はすでに青年になっており、気品があり徳のある顔をした青年のことを大臣に報告すると、その青年はお城に迎えられました。

そして大臣から王様にふさわしいと認められ、ついに王様になることが決まりました。

 

 

数日後、予言をした修行僧は自分の予言が的中したことを自慢して、王様に面会を申し入れました。

王様は修行僧が訪ねてきたことを知ると、喜んでお城の中へ迎え入れました。

王様は
「修行僧よ、あなたの予言通り、私は国王に即位しました。ついては、私もあなたに約束した通り、なんでもあなたの言うとおりに従いたいと思います。どうぞ、なんなりと言ってください」と、修行僧に向かって言いました。

すると修行僧は、
「王様、私は王様の上に立つ気もちは少しもありません。しかし、お願いしたいことが2つあります。1つは食事も、衣服もすべて王様と同じにして頂きたいこと。2つは政治にも参加させて頂き、国のまつりごとはすべて私の同意を得ていただきたいと思います」とお願いしました。

王様は修行僧を信用していたので、良き相談相手ができたといって喜んで、修行僧を城に迎えました。

王様は正法を信じていましたので、国を治めていく上でも、少しもまちがいなく、大臣や国民たちから尊敬され、信頼されていまいた。

 

ところが修行僧は、王様と一緒に食事し、政治にもかかわっているうちに、だんだんと王様と自分は同じ身分だという慢心をおこし、わがままを言うようになりました。

それを見かねた大臣たちは王様に、
「王様は国家の最高の位であります。そして国の政治は、王様のもとで私たち大臣が責任をもって行っております。しかし、あの修行僧は私たちはもとより、王様がみとめたことまで口出しします。また、他の大臣たちをバカにして相手にしません。これでは国も治まらず、他国から笑いものにされてしまいます。どうかあの修行僧を国王の側近からはずしていただきたいと思います」とお願いしました。

すると王様は、
「その修行僧は、私が少年の時、王になることを予言した者で、その時私はあの修行僧を師匠とすることを誓ったので、いまさらその約束を破って彼を追い出すことはできないのだ」と言いました。

しかし、大臣たちは全く聞き入れず、そこで王様は修行僧の心を試すことにしました。

 

ある日、王様は修行僧が出かけている間に、1人で食事をすませました。

帰ってきた修行僧は、
「何事も一緒に行う約束を破るなんて、恩知らずなヤツだ。誰のおかげで王になれたと思っているんだ」と王様をひどくののしりました。

 

修行僧は王様を守る心がなく、すでに王様を見下しているのがわかり、王様は修行僧を国外に追放することにしました。

国から追い出された修行僧は、ある小川の川下で「七宝の靴」を拾いました。
修行僧はそれを王様に献上して許しを願いました。

しかし靴が両方そろったら許そうということになり、修行僧は片方の靴を探しに小川の川上に登っていき、そこで4人の仙人に出会いました。

そして仙人は、
「修行僧よ、あなたは修行僧の1人でありながら、いま慢心をおこして物事の道理もわからなくなっている姿を改めなければならない。あの国王は、実は以前私たちと一緒に修行していた親友である。少しの失敗を悔やんで亡くなってしまいましたが、今は国王になられた、大変徳のある人です。その徳のある人をののしった罪は重いのです。片方の靴はここにあります。よく反省して、王様に仕えなさい。きっと王様は許してくれるでしょう」とさとしました。

その後、修行僧は両方そろった靴を持って王様に心からお詫びをし、心新たに国王のもとで国のために尽くすことができたという話です。

 

みなさんは、どんなに恵まれた生活を送っていても、何事も上手くいっても、決して慢心(自分はえらく、他人をバカにしたり見下したりする心)を起こしてはなりません。

日蓮大聖人さまは
「南無妙法蓮華経と唱え奉るは、有七宝(ゆうしっぽう)の行者(ぎょうじゃ)なり」と仰せです。

2つの目、2つの耳、2つの鼻の穴、1つの口の7つの穴を七宝ともいって、お題目を唱えることによって、7つの宝になるということです。

みなさんも真剣に唱題して、清浄(しょうじょう)な七宝をたもち、清浄な心をもってあらゆる人から尊敬され、信頼されるような人になれることを願っています。