塞翁(さいおう)が馬(平成27年9月)

きょうは「塞翁(さいおう)が馬」というお話です。
「塞翁(さいおう)」の「塞」とは、お城やお城のかべ、とりでのことで、「翁」とは年取った男の人のことです。

 

むかし中国の北の国境の村に、家族は1人息子と1頭の馬だけの老人が住んでいました。
しかし、村人たちはみな、このおじいさんに親切でしたので、少しも寂しくありませんでした。

村の北にある、とりでの向こうには胡(こ)の国が広がっていて、その国は名馬の出産地として有名でした。

 

ある日のことです。飼っていた馬がさくを乗り越えて逃げ出してしまいました。
そして、国境をこえて胡の国に行ってしまいました。国境を越えてしまっては、さがしにいくこともできません。

馬がいないと農作業をするのも大変で、生活が苦しくなってしまいます。

村人たちは、
「このたびは残念なことでしたね。力を落とさず何か困ったことがあったら、できるだけのことはしますから頑張ってくださいね」とはげましました。

おじいさんは
「なんのなんの、このことが幸せの原因にならないとは限りませんよ」と答えました。

 

それからは、息子が馬の分まで必死に働きました。
こうして数ヶ月がたったある日、逃げ出した馬が胡の国の立派な馬の群れをつれて戻って来ました。

村人たちは、
「よかったね。これで楽になるね」と言いました。

するとおじいさんは、
「なんのなんの、これが不幸の原因にならないとは限りませんよ」と言いました。

村人たちは少しうらやましく思っていたので、「素直に喜べばいいのに」と思う人もいました。

 

それから1ヶ月もしないうちに、乗馬好きの息子が胡の国からやってきた馬に乗って楽しんでいましたが、馬から落ちて足を折ってしまい、びっこをひいて歩くようになってしまいました。

村人たちは
「大変な災難だったね。大事にしてくださいよ」とお見舞いに来ました。

するとおじいさんは、
「なんのなんの、このことで幸せにならないとは限りませんよ」と言いました。

村人たちは、おじいさんは落ち込まないでえらいなぁとか、頑固な人だなぁと思いました。

 

息子はびっこをひいても仕事はできます。それに胡の国から来た馬たちのおかげで馬の牧場ができたので、以前にくらべるとずいぶん楽な生活になっていきました。

 

それから1年後のことです。となりの胡の国との間で戦争が始まりました。
軍人だけでは兵士が足りないので、村の若い人たちは戦争にかり出されました。

ところがおじいさんの息子だけは、足が悪いために兵隊にはなりませんでした。

兵隊となった、村の若い人たちはみな、戦争で死んでしまいましたが、おじいさんの息子だけは戦死することなく、長生きできました。

おじいさんの言った通り、馬から落ちてケガをしたことが幸いしたのです。

 

 

中国でも日本でも、この話を「人間万事 塞翁が馬(にんげんばんじ さいおうがうま)」と言います。
人間とは世の中のことを言っています。

この世の中、不幸なことが幸せの原因となり、幸せなことが不幸の原因になるかもしれない、未来の予測とは私たちには簡単にできないということです。

また、本来「塞翁が馬」には、幸せも不幸も予測できないものであるから、簡単に喜んだり悲しんだりするものではない、という意味もあります。

 

私たちの人生には常に喜びや怒り、哀しみや楽しみがつきものですから、そうしたことにいちいち心が動かされないようにありたいものです。

 

大聖人さまはこのことを『四条金吾殿御返事(しじょうきんごどのごへんじ)』に、

「賢人は八風(はっぷう)と申して八(やつ)のかぜにをかされぬを賢人とは申すなり。
利(うるおい)・衰(おとろえ)・毀(やぶれ)・誉(ほまれ)・称(たたえ)・譏(そしり)・苦(くるしみ)・楽(たのしみ)なり。此の八風におかされぬ人をば必ず天はまほらせ給ふなり」と仰せになっています。

「利」とは、あらゆることが自分の思い通りになること。
「衰」とは、物事が思うままにならず、福徳を失うこと。
「毀」とは、知らないところで悪く思われること。
「誉」とは、知らないところで誉められていること。
「称」とは、目の前で多くの人から誉め称えられること。
「譏」とは、目の前で人から悪くいわれること。
「苦」とは、悩み苦しみ、辛くたえがたいこと。
「楽」とは、本来の楽しみを忘れ、目の前の楽しみにおぼれることです。

 

では、この八風におかされないようにするには、どうすればいいのでしょうか。

それは、大聖人様の正しい信心を素直に実践することです。
朝晩の勤行をしっかり行い、毎日少しずつでもいいですから、唱題を続けていくこと。

そして、常に友だちやその家族に対して、礼儀正しく思いやりをもって接すること。

友だちからイヤなことをされても、決して恨んだり悪口を言わないことともに、御本尊様に友だちがそういうことをしないように祈ってあげましょう。

 

そして、お父さんやお母さんを困らせることがないように、言うことをしっかり聞いて、お手伝いを率先して行っていきましょう。

 

最後に「塞翁が馬」のお話のように、ちょっとしたことで怒ったり、有頂天(うちょうてん)になることがないよう、常に明るく楽しい生活が送れるよう、御本尊様やお父さんお母さん、学校の先生やお世話になっている人に感謝の心をもって、常に人を思いやり、悪口を言ったりイヤな思いをさせない、そして、善いことは進んで行うことのできるように、頑張って下さい。