烏遺 (うい)(平成26年12月)

中国でむかし、元重(げんじゅう)、淑重(しゅくじゅう)、仲重(ちゅうじゅう)、季重(きじゅう)、稚重(ちじゅう)という5人の子供たちがいました。

5人ともお父さん、お母さん、兄弟もいない、生まれ故郷もちがい、それぞれが1人ぼっちの孤児でした。

しかし、5人は大変仲良くなり、「兄弟」になることの誓いを立てました。

 

5人のみなしごは、本当の兄弟以上に何でも話し合い、助け合って、一生懸命働きました。

そして、たくさんの財産をたくわえ、欲しい家具もそろえて豊かな生活をおくれるようになりました。

しかし、5人には心のよりどころにできる両親がいません。
つらい時や、さみしい時には、ついお母さんが恋しくなります。

5人は相談して、ある時出会ったおばあさんにお願いして、自分たちのお母さんになってもらいました。

 

お母さんをむかえて大喜びの兄弟は、お母さんを大切にして真心で仕え、いつしか24年の歳月がたちました。

お母さんもとても幸せな毎日をすごしましたが、もうすっかり年老いて病気となり、口をきかないようになってしまいました。

 

5人は「お母さん、私たちに悪いことがあったらあやまりますから、どうか口をきいて下さい」とお願いしました。

 

でも、お母さんはだまったままで、何も話しません。

こまった5人は、こんどは、天に向かって
「私たちはほんとうのお母さんと思って、親孝行に努めてきました。私たちの孝養がたらなかったのか、母は口をきいてくれません。どうか私たちの願いをかなえて下さい」と手を合わせました。

すると天に願いが通じたのでしょうか。
お母さんが口を開いて、はじめて自分の生い立ちを話してくれました。

 

「わたしは太原の出身で、父は陽孟といいます。大人になって、同じ故郷の張文堅という人と結婚しました。その後、主人は戦争で亡くなりましたが、子供がいましたので私にはまだ希望がありました。

しかし、その子とも戦争によって離ればなれになったのです。

その子の名前は烏遺(うい)といい、胸に七つ星の形のあざがあって、右足の下にはほくろがありました。

わたしは、ずっと国中をさがしていたのですが、とうとう見つけることはできませんでした。
でも、あなたたちと出会えて、とても親切にしてもらって、本当に感謝しています。でも烏遺のことが心配で…」

と、言い終わると、お母さんは力尽きたように亡くなってしまいました。

 

5人は深く悲しみ、手厚くお母さんの葬式を行い、墓地に埋葬しました。

墓地から帰る途中、国令(知事)の一行に会いました。

何でも大事な書類を無くしたらしく、たまたま出会った5人が、書類を盗んだ犯人ではないかと疑われてしまいました。

5人は国令の前に連れて行かれ、国令は5人に「お前たちはどこに住んでいる者か?ここで何をしていたのか?正直に答えなさい」と言いました。

5人は正直に自分たちの生い立ち、たった今、お母さんの葬式をして埋葬したこと、そしてお母さんが実の子である烏遺という人を探していることなどをくわしく話しました。

 

すると国令は5人の前にひれ伏し、
「実は私が今の話の烏遺なのです。私もずいぶん母を探しましたが、ついに会えなかったのです。一生懸命頑張って、国王にも認められ、今は国令の地位にあります。

しかし、母と離ればなれになって、母を忘れない日はありませんでした。
あなた方5人が、24年間もの間、私の母を大事にしていただいた事を聞いて、こんなに嬉しいことはありません。本当にありがとうございました」と言いました。

 

5人はそのことを聞いて、国令に
「お母さんも立派になったあなたのことを、どんなに喜んでいることでしょう。私たちも、お母さんが心残りにしていたあなたと出会えて、こんなに嬉しいことはありません」と言いました。

 

その後、5人は国令のとりなしで、国王より5つの県を任され、5人がそれぞれ国令という高い地位につくことになりました。

 

 

日蓮大聖人様は、この中国の話を引かれて、
「他人が集まって兄弟となり、他人の親を養ってもこのような功徳があります。

ましてや本当の兄弟が本当の親に孝行するならば、それ以上の功徳が具わり、諸天善神も必ず護ってくれるでしょう」と仰せです。

また別の御書には
「お母さんがこども産み育てるということは、他のどんなことよりも大変なことです。

親は十人の子供でも養い育てますが、子供はたった一人の母親にさえ充分に孝養することは稀なことです。
どうか親に対しては孝養をつくしましょう」と仰せです。

 

皆さんも、5人の孤児たちのように、親孝行をしましょう。

そのためには、まずお父さんやお母さんの言うことをよく聞いて、一生懸命勉強して下さい。
そして、一番大事なことは、毎日の朝夕の勤行をしっかり行い、唱題していきましょう。